古代中国では神と言えば山神や天神、さらに雨神、風神、雷神など天候の神や疫病をもたらす瘟神などもいます。天候や光、時間など何かを司っている神様も多く見られます。神様なので神話では文字通り主役になります。
今回は意外と知られていない中国神話に出てくるマイナーな神様について書いてみました。
嘘(きょ xu1 シュー)
嘘は山海経中に出てくる大荒に住む神ですが、その見た目は想像を越えています。
山海経の大荒西経には、”大荒の中に日月山という山があり、天の要であった。この山の主峰は呉姖天門山と言い、太陽と月が沈む場所であった。神人がおり、形状は人に似ているが腕はなく、二本の足は反り返り頭の上にあり、名を嘘と言った。”とあります。
嘘は両腕が無く、両足がどのように反っているのかわかりませんが反り返り頭上にあるという不思議な外見をしています。山海経中に書かれている人物描写はまるで実物を見ているような描写がなされている場合がありますが、これはもともと山海経の内容を描いた図があり、山海経はその図の説明をしている言われています。ちなみに図はまだ見つかっていません。
足は前方、後方、もしくは側面に反り返っていることがイメージできますが、どちらかと言うと後方に反ってエビ反りのようになっているような気がします。
山海経大荒西経に関しては以下をご覧ください!
弁玆(べんじ bian4zi1 ビエンジィ)
弁玆は大荒西経に記載が見られており、”西海の島嶼上に神人がおり、人面に鳥の体であり、耳には二条の青蛇をかけていた。足の底には二条の紅色の蛇を踏んでおり、名を弁玆と言った。”とあります。
西の果てにあると言われていた海である西海の島の上にいます。見た目は人面鳥ですが、耳にはピアスのように蛇をかけている上に蛇を踏みつけています。蛇の色も青や紅で個性が見られます。山海経の中では神はよく蛇を持っている姿で描かれており、太陽を追いかけた伝説を持つ夸父なども山海経中では蛇を持った姿で描かれています。
中国では色は重要な意味を持っていますので、蛇の色にも何か意味があるのかもしれません。
夸父に関しては以下をご覧ください!
山海経大荒西経に関しては以下をご覧ください!
石夷(せきい shi2yi2 シィーイー)
石夷は四方の風神の一柱で西方の風を司っています。山海経の大荒西経には、”石夷という名の神人がおり、西方人は単に夷と呼び、北方から吹く風を韋と称し、大地の西北の角で太陽と月の昇降時間の短長を司っていた。”とあります。
石夷は風神ですが、さらに月と太陽が出る時間を司ると言う重要な神でした。山海経中には他の風神も描かれており、東方の風神は折丹、南方の風神は因因乎、北方の風神は禺疆や禺強です。
因因乎に関しては以下をご覧ください!
禺疆に関しては以下をご覧ください!
禺疆:海神であり風神でありさらに疫病を運ぶ瘟神でもある人面鳥身の神様
禺強に関しては以下をご覧ください!
折丹に関しては以下をご覧ください!
山海経大荒西経に関しては以下をご覧ください!
出典:wiki
柏子高(はくしこう bai3zi3gao1 バイズガオ)
柏子高は、中国神話中に出てくる神様です。
山海経の海内経には、”華山青水の東面に肇山という名の山があった。柏子高という名の人がおり、柏子高はここを上下に行き来し、天上へと至ることができた。”とあります。
この一文に対して晋時代に山海経の注釈を行った郭璞は、”柏子高は仙者なり。”と注釈しています。元々の山海経の記述では人でしたが、郭璞は仙人と解釈しました。このため、現代では柏子高は仙人として認識されています。
山海経海内経に関しては以下をご覧ください!
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不廷胡余(ふていこよ bu4ting2hu2yu2 ブーティンフーユィー)
不廷胡余は南海諸神の一柱で顔は人面で両耳には二条の青蛇をかけており足で赤蛇を踏みつけています。
山海経の大荒南経には、”南海の島嶼の上に神人がおり、人の顔をしており耳には二条の青色の蛇をかけており、脚の底では二条の紅色の蛇を踏んでいた。名を不廷胡余と言った。”とあります。
不廷胡余は弁玆と同じ地位の神様であると言え、大荒西経内では弁玆が、大荒南経ではこの不廷胡余、大荒北経では禺強、大荒東経では禺猇が同じように島嶼の上に住んでいる神として描かれています。四方の大荒の主みたいな立ち位置に思えます。特に禺猇は黄帝の息子であると書かれており、かなり地位の高い神されであることが伺えます。
黄帝に関しては以下をご覧ください!
山海経大荒南経に関しては以下をご覧ください!
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慶忌(けいき qing4ji4 チンジィ)
慶忌は古代中国神話中に出てくる巨大な異獣でです。黄色の衣を羽織り黄色の帽子をかぶり、黄色の小さな車に乗り一日に千里を駆けたと言います。
《管子・水池》や《太平御覧》に記載が見られます。
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折丹(せったん she2dan1 ショーダン)
折丹は四方神の一柱で、古代伝説中の風神の名前です。
山海経の大荒東経には、”大荒に三つの高い山があり、それぞれ鞠陵于天山、東極山、離瞀山と言い全て太陽と月が初めて出て昇る地方であった。神人がおり、名を折丹と言い、東方人は単に折と呼び、東方から吹く風を俊と言った。折丹は大地の東極を管轄し風を起こし風を停める。”とあります。
郭璞は、”折丹、神人。”と注釈を書き残しており、《駢雅・釈天》には、”折丹、飛廉、風師也”とあります。ここで出てきた飛廉は風伯飛廉(ふうはくひれん)のことで、風伯は涿鹿の戦い(たくろくのたたかい)で黄帝を追い詰めた風神です。
風伯に関しては以下をご覧ください!
涿鹿の戦いに関しては以下をご覧ください!
神獣を巻き込んだ古代中国最大の激戦、涿鹿(たくろく)の戦いとその結末
大荒東経に関しては以下をご覧ください!
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勾陳(こうちん gou1chen2 ゴウチェン)
勾陳は中国神話中の上古六神の一柱です。六神とは、勾陳の他に四象である青龍、白虎、朱雀、玄武、そして騰蛇の六神を指します。このため勾陳は地位の高い神であると言えます。世四象は東西南北をそれぞれ守護しており、中央は黄龍や麒麟などによって守られています。
それぞれの神獣に関しては以下をご覧ください!
玄武:亀甲占いから生まれ玄冥となりさらに発展し真武大帝となった四象
《荊州占》には、”勾陳は黄龍の位なり。”とあり、黄龍と同格であると書かれています。黄龍は中央を守護しており、四象を統率する地位にいますので、青龍などよりも上位と考えられます。また、《易冒》には、”勾陳は実名を麒麟と言い、中央に居る。”とあり、こちらは中央を守る麒麟のことであると書かれています。《韵会》には、”天にある時には飛虞と呼ばれ、鹿の頭に龍の体をしている、地にある時には天馬と称する。”とあります。
この天馬という記述から山海経中に出てくる天馬との同一性が指摘されており、勾陳は天馬のことではないかと言われています。
天馬に関しては以下をご覧ください!
貳負(じふ er4fu4 エルフ)
貳負は人面で蛇体の人と蛇が合わさった怪物ですが、古代には神として崇められていたと言います。さらに殺戮を好むため武官の象徴ともなりました。
貳負は山海経中では神として描かれており、海内西経には、”貳負の臣を危と言った。危と貳負は協力して窫窳(あつゆ)を殺した。天帝は貳負を疏属山中に拘禁し、その右足を刑具の上に載せ、自分の頭髪で貳負の両手を縛り山上の大樹の元に縛り付けた。”と神殺しの大罪人として書かれています。
同様には海内西経には、”開明獣の東面には巫師神医である巫彭、巫抵、巫陽、巫履、巫凡、巫相がおり、彼らは窫窳の屍体周囲を囲んでおり、手に不死薬を捧げ死気に逆らって窫窳を復活させようとしていた。窫窳は蛇身人面で貳負とその臣下の危により殺された。”と、窫窳が巫術師たちによって復活させられている様子も描かれています。
神話上ではこの後窫窳は復活しますが、もともとの穏やかで優しい性格は失われてしまい、狂暴な怪物となり暴れまわったと言います。最終的には中国神話中の英雄である后羿により退治されました。
さらに面白いことに山海経注には貳負の最後も描かれており、海内北経には、”大行伯という神がおり、手に長矛を握っていた。大行伯の東面には犬封国があった。貳負の屍は大行伯の東面にあった。”と言う文章と、”鬼国は貳負の屍の北面にあり、そこに住む人は人面で目が一つであった。別の言い方をすると、貳負神は鬼国の東面におり、貳負は人面で蛇の体をしていた。”と言う文章があり、貳負の見た目と遺体のある場所が書かれています。
出典:baidu
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