中国神話中の羊の妖怪1:羬羊、葱聋、猼訑、土縷、䍺など

羬羊(しんよう qian2yang2 チアンヤン)

羬羊は古代神話伝説中の野獣名です。銭来山に住むと言われ、その形状は羊のようで馬の尾があったと言います。山海経には、その油脂は皮膚のひび割れによく効くとあります。

羬と言う漢字の持つ意味は大きな羊です。《尔雅》には、”羊が六尺になると羬と為す。”とあります。

また、羬羊は元々はヒマラヤに住む捻角山羊、則ちマーコールを指していたのではないかという説もあります。

古籍の記載を見てみますと、山海経には羬羊は様々な山に住んでいた記述が見られます。

《山海経・西山経》には、”西方第一列山系華山山系の首は銭来山と言い、山上には松の木が多くあり、山下には多くの洗石があった。山中には野獣がおり、形状は一般的な羊で、馬の尻尾があり名を羬羊と言った。羬羊の油脂は皮膚のひび割れによく効くと言う。”とあります。




西山経には銭来山の他にも英山、鹿台山、白於山に生息している記述が見られます。

山海経・西山経に関しては以下をご覧ください!

山海経を読もう!No,2 五蔵山経西山経編

《山海経・中山経》には、”さらに西へ三百里に牡山があり、山上には至る所に鮮やかな色彩模様の美しい石があった。山下の至る所には竹箭、竹【上⺮下媚】の類の竹叢があった。山中の野獣は【牜乍】牛、羬羊が多く、禽鳥は赤鷩が最も多かった。”とあり、羬羊が牡山に住んでいると言う記述があります。

牡山の他にも夸父山、攻離山に生息していると言う記述があります。

山海経・中山経に関しては以下をご覧ください!

山海経を読もう!No,5 五蔵山経中山経編

羬羊は様々な山に生息しているのでその生息域は広く、この時代には割とよく見られる生き物だったと考えられています。

出典:baidu

葱聋(そうろう cong1long2 ツォンロン)

葱聋は野羊の一種で、チベットカモシカの事を指していると考えている人もいます。

《山海経・西山経》には、”さらに西へ八十里に符禺山があり、山南陽面からは銅が産出され、山北陰面からは鉄が産出された。山中には野獣がおり、葱聋と言った。その形状は一般的な羊であるが紅色の鬣があった。”とあります。

《康熙字典》によると、”葱聋は羊のようで首は黒く赤い鬣がある。”とあります。清朝の郝懿行や李时珍など後世の学者たちはこれは実在した羊の事を指しているのではないかと指摘しています。

出典:baidu

猼訑(はくち bo2yi2 ボーイー)

猼訑は中国神話に登場する羊のような怪獣です。猼訑には九条の尾と四つの耳、目は背中についていると言います。

山海経の南山経には、”さらに東へ三百里に基山があり、山の日の当たる南面には多くの玉石が産出され、山の陰になる北面には奇怪な樹木が多くあった。山中には野獣がおり、羊のようで九条の尾と四つの耳を持ち、眼は背の上にあった。名を猼訑(はくち)と言った。人がその毛皮を着ると恐怖心が起こらなくなるという。”とあります。




山海経南山経に関しては以下をご覧ください!

山海経を読もう!No,1 五蔵山経南山経編

九本の尾を持つと言う怪物でさらに耳が四つに目が背にあると言う奇怪な外見をしており、基山の山中に生息していたと言います。この基山ですが、猼訑の他にも三つの頭と六つの目、六つの足、三つの翼を持つと言う尚付と言う不思議な鳥も生息していると伝わっています。この尚付ですが、面白いことに食べると居眠りをしなくなる効果があるとされています。

中国神話中では九本の尾を持つ霊獣は多く出ており、青丘山の九尾狐が有名です。九尾狐は四現在では妖怪のイメージがありますが、これは後世に脚色されたためです。

九尾狐に関しては以下をご覧ください!

九尾狐:元々はおめでたく徳の高い神獣とされていた青丘山の九尾狐

その他にも崑崙山を守る陸吾(りくご)や開明獣(かいめいじゅう)なども九本の尾を持っています。

陸吾に関しては以下をご覧ください!

天神陸吾:高い霊力を持つ人面虎で天の九部を司る崑崙山の守護神

開明獣に関しては以下をご覧ください!

開明獣:虎のような体に人の顔が九つついており見た目も怖い神獣

出典:baidu

土縷(どろう tu3lou2 トゥーロウ)

土蝼は中国古代神話中の人を食べると言う山羊に怪物です。四本の角を持ち山海経の西山経に記載が見られ、”山中には野獣がおり、形状は普通の羊であるが四本の角を持ち名を土縷と言い人を食べた。”とあります。

この土縷が住んでいる山は有名な崑崙山で、西王母が住み天神陸吾が管理しています。

西王母に関しては以下をご覧ください!

西王母(王母娘娘):崑崙山に君臨する不老長寿の薬を司る女神

山中には土縷の他にも様々な不思議な動植物がおり山海経の西山経には、”崑崙山の山中には禽鳥がおり形状は一般的な蜜蜂であるが大きさはオシドリと同じくらいであった。名を欽原と言った。この欽原鳥が刺すと刺された獣や禽鳥は死んでしまい、樹木を刺すと樹木は枯れてしまったという。山中にはさらに別の禽鳥がおり名を鶉鳥と言い、天帝の日常生活中に用いる器の装飾を主管していた。山中には樹木があり形状は普通の棠梨であるが黄色の花びらで紅色の果実を実らせ、味は李であるが種は無かった。名を沙棠と言いこれを用いると水を避け、人が食べると浮遊して沈まないと言う。”とあります。

欽原に関しては以下をご覧ください!

中国神話に出てくる巨大な昆虫の怪物達:欽原、玄蜂、南海蝴蝶、朱蛾、文文

出典:baidu

䍺(かん huan2 フエン)

䍺は山海経に記載されており、五蔵山経南山経には、”さらに東へ四百里に座洵山があり、山の南陽面からは金属鉱物が豊富に産出され、山の北陰面からは玉石が豊富に産出された。山中には野獣がおり、その形状は一般的な羊であるが口は無く、物を食べなくても活動でき死ななかった。名を䍺と言った。洵水はこの山から出でて南に流れて閼澤の南に注いでいた。水中には紫色の螺が多くいた。”とあります。

五蔵山経南山経に関しては以下をご覧ください!

山海経を読もう!No,1 五蔵山経南山経編

奇妙なことに口がありません。そのため食べることができないと想像してしまいますが、その想像を裏付けるように物を食べなくても死なずに生きることができるという不思議な記述があります。栄養を補給せずに生きることができる生き物は想像上の生物には存在しえないので想像上の神獣かもしくは口ではなく別の器官から栄養を摂取しているのかどちらかだと思われます。

出典:山海経

今回は様々な羊の怪物をご紹介いたしました。どの怪物も不思議な印象を受けますが、一方でもともとは実在しているもしくは古代には生きていたが今では絶滅してしまった種がモチーフになっているのかもしれないとも思います。




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