女媧:中国神話における創造神で人を始めとして様々な動物を作り出した女神

女媧(じょか nv3wa1 ニューワー)

女媧は中国の古代神話中の神です。神話中では女媧は人類の母であり、早期の文字にもある仰韶文化(ぎょうしょうぶんか:中国の新石器時代の文化)中の動物を題材とした模様、いわゆる蛙紋器皿が示しているように、女媧は創世神話の母神です。娲皇や女陰娘娘、史記女娲氏などとも称され、華夏民族人文の先始であり、先聖伏羲と共に崑崙山に住んでいるとされ、福を守り五穀豊穣をもたらす正神です。

神話中では女媧が人間を作り、一日に七十物を作り、黄土を以て自身を真似、泥をこねて人を作り、人類社会のみではなく、婚姻制度も同時に作りました。天地が壊された際には、彩石を熔かして蒼天の修復をし、跋扈していた悪獣猛禽を退治した上、すっぽんの足を斬って以て四極を立てるなど、女媧が天地を修復し大地を整えたという神話が残されています。

その他に、女媧は葦を枝を使って笙簧(しょうこう)、オカリナに似た塤(けん)、弦楽器である瑟(しつ)などの楽器を作ったと言われているので、人々は女媧を音楽の女神としても信奉しています。さらに、女媧は人類に代わって婚姻制度を確立し、若い男女を結婚させ子孫繁栄を促進した為、婚姻の女神であると伝えられています。

女媧は天を修復し人を作り出した女神だけではなく、万物を創造した自然の神です。神通は広大でしたので万物を生み出し、毎日物を七十個作り出しました。このことから大地の母とも言われ、太古の昔から人々の間で創世神と始母神として崇拝され続けています。

  • 女媧の背景

考古学の文物遺跡の出土品から、遺跡と彩陶紋飾は、有史前の人類と洪水抗争及び生殖崇拝が行われていたことに対する足跡を残しています。その歴史文化の根源は、原始母系社会の女性崇拝観念が受け継がれたことにあります。女媧には様々な呼び名があり、娲皇、霊娲、帝娲、風皇、女陰、女皇、女帝、女希氏、神女、陰皇、陽帝、帝女などで、史記の女媧氏には、風(もしくは鳳、女)姓は古代伝説中の大地の母であると書かれています。




また、一説によると、女媧の名前は風里希(もしくは鳳里犠)と言い、中国の神話中で万物を守る女神として描かれています。また、女媧は華夏族の母親で生命を作り出しました。また、生き物たちのために天災を避け守ったため人々から創世神話中の母神として深くそして長く信仰されています。

先秦時代の文献である古籍、《史籀篇》、《礼記》、《山海経》、《淮南子》や秦漢以降の《漢書》、《風俗通義》、《帝王世紀》、《独異志》、《路史》、《繹史》、《史記》などの史料にはどれも女媧に関する記述がみられ、神話中で重要な位置を占めているとともに、後世にも大きな影響を与えていることが伺えます。

一方で、女媧の地位は変化が見られ、ある時は神話初期の重要な人物たちを指す三皇よりも上の存在とされていますが、ある時には三皇の一柱に数えられています。さらには三皇の下に数えられている場合もありますので、様々な解釈により女媧の地位が変化していることが伺えます。

この原因は三つあり、一つ目は神話中では女媧は万物を生み出したので、創造主として並ぶもの無き存在となっているため三皇よりも上とされます。二つ目は伏羲と女媧は肉親であり夫婦と成しているので、三皇に数えられる伏羲と同列の三皇に数えられるというものです。三つめは、儒教の書物の中では伏羲と神農と黄帝が三皇であるという観点が喧伝されている上に、男尊女卑の観点から三皇以下とされてしまいました。

女媧の創世神話

女媧の前には天も地も人もない状態でした。女媧は神話中で最初に神となり、万物を創造し人を造り天を補修しました。これより中国神話が始まります。つまり女媧は天と地と人を造り出した創造主なのです。

《山海経・大荒西経》、《楚辞・天問》、《説文解字》など秦漢時代の典籍中に女媧の記載を見ることができ、女媧は自らを万物と神族に変化させており、これは世界各地の神話にある創造神が自分の身体の一部を万物とその他の神に変えている話と共通点しています。その後の盘古神話及び少数民族中の創世神話中にも、最初の神が身体を用いてこの世界を作り出した内容が見られますので、何かしら接点があったのかもしれません。




《山海経》、《淮南子》、《楚辞》、《風俗通義》、《水経注》、《独異志》、《太平御覧》などの古籍にある、”摶土造人(土をこねて人を造った。)”、”煉石補天(熔かした彩石で天を補修した。)”、”制笙簧(しょうこう:芦の管で作る楽器。)”、”置婚姻、合夫婦(婚姻制度を作った。)”という逸話が後世の評価で突出した業績であると結論付けられています。

良く見落とされがちですが、女媧は万物の創世者です。中国各地に残っている言い伝えによると、女媧は天地が出来た正月一日に鶏を造り、二日目に犬を造り、三日目に豚を造り、四日目に羊を造り、五日目に牛を造り、六日目に馬を造り、七日目に人を造ったといいます。さらに神話中では女媧の肉体は土地に変わり、骨は山岳に、頭髪は草木に、血液は河にそれぞれ変わったと言います。盘古大神の創世と同じです。この創世神話の伝説は現在まで継続的に信仰されていますので人々からとりわけ重視されています。

古代の人々は、鶏、犬、豚、羊は春夏秋冬の四季を、牛と馬は地と天を代表すると考えていました。班固の《漢書・律歴志・上》中には”七者、天地四時、人の始まり也。”とあります。犬や豚など六者と人間を合わせて七者です。さらに六者は四季と天地を表しているため、このことから人が始まった正月初七を”人日”と呼ぶ由来の一つとなっています。

許慎《説文》には、”娲、古の神聖女、万物に変わり育む者也。”と強調されています。これは、女媧は煉石補天の英雄と造人の女神のみではなく、万物を創造した偉大な自然の神でもあるということです。

《長沙子弾庫楚帛書》の記載、女媧と伏羲が物を作った時、すでに天地がありましたが荒涼としていたため、伏羲は女媧を娶り子を四人生み、万物を命名しました。

  • 女媧造人

女媧は創世神ですが、自然界のみではなく人間も造っていますので、女媧は造人の神でもあります。

伝説によれば、ある日黄河の河畔を通っているとき、開天開辟以来、山川湖海、飛禽走獣を創造し、静寂の世界を変えたことを思い出していました。しかし、女媧はこの世界には欠陥も甚だ多いことを自覚していました。女媧はうなだれ黄河に映る自分の影を見たとき、突然悟りました。この世界には自分のような”人”が居ないからなのだ、と。する女媧は自分の外見を見て、黄河の泥をこねて泥人を造り、神力を施し、泥人を人に変えました。女媧が女性と男性を造り、人としていつか死ぬ日が来ます。

  • 女媧賜酒

女媧が黄土をこねて人を造り、昼間に耕し夜は休み、楽しいことはありませんでした。女媧は不憫に思い、甘露を酒に変え、振舞いました。すると仕事の疲れも吹っ飛び、血行が良くなりみんなで飲く楽しみました。人々は女媧の賜身、悦の心、その恩を感じ酒を以て敬いました。これ以降は、人々に酒をもたらしたとして女媧を敬うようになり、次第に礼節の習慣に酒を使うようになり、さらには酒を以て天を敬う習慣が出来ました。

  • 造人伝説について

民間に伝承されている伝説では、天地開闢の初めに地上に人類がいなかったので女媧は黄土を捏ねて人を造ったと言います。女媧は全身全霊で泥を捏ねた後、その泥水の中に縄を垂らし引き上げました。すると縄を伝って泥水が滴ると、その雫一滴一滴が人に変わりました。後世の人々は、高貴な人間は女媧が黄土を捏ねて直接造り、貧賎の民はこの縄によって垂らされた泥水で造られたと語るようになりました。




一方、《淮南子・説林訓》には、女媧と諸神が共同で人を造ったとあります。女媧が人を造る際に、諸神がその作業を助けたというものです。すなわち、”黄帝が男女の性別を作り出し、顔に耳、眼を造り桑林が腕と掌を造った。”とあり、女媧とその他の神々の手によって人間の形ができた伝えられています。漢末の学者の高誘の注解では、”黄帝は古代の天神で、造人が始まったころに男女の性別を作り出した。”とあります。

黄帝に関しては以下をご覧ください!

黄帝:中国の始祖であり古代神話中最大の功労者

この説では黄帝が天地創造の時にすでに存在していたことになりますので、黄帝が登場することは少々強引である気がしますが、女媧のこの造人以降、兄の伏羲と共に人類の繁栄に尽力したと言います。

  • 女媧補天

中国神話中で非常に有名な話の一つがこの女媧補天です。この話は《淮南子。覧冥訓》や《列子・湯問》などの書籍に記載されています。内容は、はるか昔、四本の天柱が傾き、九州の大地が裂け、大火が止まることなく燃え続け、洪水も終わることなく続いた。女媧が人類が害を受けていることがいたたまれず、燃やして溶かした五色石で天空を補修し。神鼈(すっぽん)の足を折りその足を四極とし、洪水を治め猛獣を殺し、人類は再び安心して暮らせるようになった、というものです。

この話は書籍によって内容が異なっており、《論衝・談天篇》、《史記・補三皇本紀》では、水神共工と火神祝融の戦いで、共工が天柱の一つであった不周山に頭突きをして折ってしまったため天地が傾いた、という説をとっています。一方の《淮南子・天文訓》には、共工と顓頊の戦い、《淮南子・原道》には、共工と高辛氏の戦い、そして《雕玉集・壮力》には、共工と神農氏の戦い、《路史・太呉紀》には共工と女媧と、書物により共工の戦った相手が異なっています。

共工に関しては以下をご覧ください!

水神共工:治水で民に尽くしそして山をも真っ二つに割ってしまう狂戦士

顓頊に関しては以下をご覧ください!

顓頊:黄帝の孫で中国古代の国家である華夏王朝の始祖。

四大名著の一つとされている《紅楼夢》の第一回ではこの故事が引用されています。また、神話を現実に即して考えている学者の中には、不周山とは房柱の暗喩であり、天とは屋根の事を指している、と考えています。これなら頭突きで昔の家が壊れる場合が十分考えられますし、現実的です。そして娲氏一族の者が石を熔かして傾いた家の屋根を修復した、というものです。

書物に記載されている女媧

《山海経・大荒西経》には、”十柱の神がいた。名を女媧の腸と言った。神に化け、栗広の野におり、横道に住んだ。”とあります。東晋の郭璞の注釈では、”女媧、古の神女そして帝者、人面蛇身、一日に七十回変化した。”とあります。《説文解字》には、”娲、古の神聖女、万物に化ける者なり。”とあります。

《太平御覧》七十八巻は《風俗通義》を引用して、”俗説では天地開闢、今だ人民がおらず。女媧は黄土を捏ねて人を造り、泥の中から縄を引き上げて以て人を成した。”とあります。《列子・湯問》には、”天地は物にすぎず。物はあるが足りず、故に昔は女媧氏が五色を焼いて熔かして以てその宮殿を補修する。鼈の足を切り以て四極を立てる。その後、共工氏と顓頊が帝位を争い、起こって不周山に頭突きし天柱を折る。地は保てず故に天は西北に傾き、日月辰星は動いてしまった。地は東南を満たせず、故に百川は流れずに溜まってしまった。”とあります。




《淮南子・説林篇》では、”黄帝は陰陽を生み、上駢は耳目を生み、桑林は腕と手を生み、女媧は七十を以って化ける也。”とあります。この他にも様々な書物に記載が見られます。

  • 珍しい複姓

中国の姓は漢字一文字の場合が多く、漢字二文字の姓は珍しいです。中国には女媧氏という姓があり、これは神話中の女媧に由来しています。女媧の後、社会は次第に母系氏族社会から父系氏族に変わりました。その部族民衆中には女娲の名を自身の姓氏にするものが現れ、女娲氏を称しました。これは非常に古い原始五氏に一つです。現在では女娲氏は北京市東城区、海淀区一帯にわずかですが存在しています。

女媧の地位

女媧には女媧造人や補天神話など重要な神話があり、万物の祖という神話の原点であるにもかかわらず、功績に比べてその地位はあまり高くありません。中国の古代神話中の重要な神や帝を選別した三皇五帝があります。この中で三皇は神話初期時代の神々から選ばれ、五帝はそれ以降の帝から選ばれます。この三皇五帝には書物により様々な解釈が存在しています。女媧は基本的に三皇に入っていますが、入らない場合もあります。

後漢の応劭が記した《風俗通義》には《春秋運頭枢》を引用し、”伏羲、女媧、神農は三皇なり。”とあります。三皇には基本的に伏羲と神農が入っていますが、残りの一柱は女媧の場合もあれば祝融の場合もあります。東漢の前には三皇と言えば少なくとも三種類の解釈が有りました。しかし、これ以降は女娲は除外される場合が出てきます。

出典:baidu

今回は中国神話中の最重要人物と言っても過言ではない女媧をご紹介しました。女媧は天地と人、そして様々な動物を作り出したいわば創造神です。その他にも楽器や婚姻制度など今日につながる様々な物や制度を作り出しているので、これだけを見ると唯一無二の存在と言っても過言ではないと思います。

中国では時代背景もありますが、基本的に男尊女卑の考え方の儒教が強く、その結果女媧の地位は低下して三皇、さらには三皇にすら加えられないまで下げられてしまったと思われます。

中国では儒教と共に道教も重要な宗教となっていますが、道教の根底にある陰陽五行説においては男女は陰と陽に分けられます。男が陽で女が陰です。少数民族の苗族では、陽である男性が政治を司り、陰である女性が呪術を行っていました。苗族で盛んに行われていた有名な呪術に蠱毒がありますが、実はこの蠱毒は女性により行われ、作られた蠱は代々その娘に継承されていったと言います。

蠱毒に関しては以下をご覧ください!

蠱毒(こどく)で本当に人を呪えるのか?そもそも中国の蠱毒とは?

ちなみに三魂七魄(さんこんしちはく)という言葉がありますが、三魂七魄は人を司り、死後には体から抜けてしまいます。魂は陽で魄が陰です。両方とも抜けてしまえばいいのですが、稀に魄だけが体に残ってしまう場合があるとされ、魄が残ってしまった体は妖怪になってしまい、死者がよみがえります。これが有名な中国の妖怪キョンシーです。

キョンシーに関しては以下をご覧ください!

キョンシーを徹底解説!中国のキョンシー実在調査のまとめ

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