朱雀(すざく zhu1que4 ジューチュエ)朱雀が生まれた背景
朱雀の読み方はすざくで、四神の一つです。四神とは中国神話中の中央を守護する青龍、朱雀、白虎、玄武のことを指します。京都でも朱雀大路や朱雀門など名前が見られますので、日本でもおなじみの霊獣です。四神は四獣や四象とも呼ばれ、季節や方角といった属性を持ちます。四象とは陰陽説に由来しており陰と陽からそれぞれ生み出される、少陽、老陽、少陰、老陰のことを表しており、青龍、朱雀、白虎、玄武はそれぞれと対応しています。
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玄武:亀甲占いから生まれ玄冥となりさらに発展し真武大帝となった四象
さらに、この四象からさらにそれぞれ陰と陽が生み出されて八卦をなします。よく聞く八卦とは実は陰と陽の3つの組み合わせから成っているのです(陽陽陽、陽陽陰、陽陰陰、陽陰陽、陰陽陽、陰陰陽、陰陽陰、陰陰陰の八つの組み合わせ)。この陰陽説は五行説と結びついて漢代頃に風水などでおなじみの陰陽五行説が作られました。現在では陰陽五行説として風水などで使用されています。朱雀とはもともと陰陽五行説に神獣を当てはめた内、南方に属す神鳥として作られてのです。すると、陰陽五行説において南方は火、夏、赤などに属していますので、朱雀も火属性の赤い鳥となりました。同様に青龍なども作られました。
東西南北と言う方角がありますが、五行ですと方角が一つ足りません。残りは実は中央で、黄龍もしくは麒麟や騰蛇の場合もあります。属性は土、黄色、季節は土用を代表しています。中央は青龍とかぶっている黄龍ですので、とって付けたような雑な扱いになっている感がぬぐえません。これは四象を五行に無理やり当てはめたからだと個人的には思っています。ちなみに中央とは具体的にどの辺かと言いますと、中国の長江と黄河で挟まれた中原地帯です。漢代辺りの書物には洛陽が中心として書かれています。
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四神は元々は、中国の古代の神様、三皇五帝の内、五帝を守護する役目を持つとされており、中原地帯から東西南北をそれぞれ護っています。日本でもお馴染みのこの四神について、本場中国ではどのように捉えられているのか、今回は朱雀について徹底的に調べてきましたのでお知らせいたします!
朱雀(すざく zhu1que4 ジューチュエ)
朱雀の原型は、キンケイ、孔雀、鷹、鷲、白鳥、燕など多種多様ですが、大きな鳥がモチーフとなっています。一説によると、朱雀は鳳凰と同一とも言われ、中国では古くから幸せをもたらす神聖な霊獣として考えられてきました。また、インドのヒンドゥー教の神話に出てくるガルーダに由来しているとも考えられています。ちなみに中国の神話中では鳳凰は鶏の頭に燕のあご、蛇の首、魚の尻尾を持ち、身体には五色の模様があると言われています。玄武同様に様々な動物の組み合わせから形作られています。
伝説中では朱雀には五種類いるとも言われ、赤い神鳥を朱雀といい、青を青鸞、黄色を鹓鶵、白を鴻鵠(白鳥のこと)、紫を鸑鷟と言います。
朱雀
青鸞
鹓鶵
鴻鵠
鸑鷟
朱雀は四霊の一種で、北斗の拳のように自身の宿星(星座)を持っています。朱雀は南方の守護であるので、南方の星座、いわゆる井、鬼、柳、星、張、翼、軫が朱雀に関連付けられています。朱は赤色であり、火のようであることから、朱雀は南方の火に属し、古い名を鳳凰と呼び、火の中から再生するという、ヨーロッパのフェニックスと同じ性質を持っています。故に火鳳凰とも呼ばれています。
四象としての朱雀
四象とは陰陽五行学説で用いられている言葉です。この世の中は陰と陽に分けることができ、この陰と陽をさらに陰と陽に分けた場合を四象と言います。つまり、陰陰、陽陽、陰陽、陽陰の組み合わせから成ります。この四象には方角と季節があてがわれています。
道教が興ってから後、四神は道教に取り入れられて様々な発展を遂げました。朱雀は道教の南方七星座で、四象の一つとなりました。つまり、二十八星座中の南の方角に見える七つの星座(井、鬼、柳、星、張、翼、軫) を司り、形状は鳥で方角は南、火に属し色は赤の鳳鳥を朱雀、または”朱鳥”と呼びました。これらの星座を合わせて鳥が羽を広げた形に見立てています。
火の中からよみがえるという神話と、日本の漫画などの影響を受けてフェニックスを朱雀或いは鳳凰と同一視するように認識が変化していると中国の専門家は分析します。鳳凰に関しては以下をご覧ください!
古代の鳳鳥が火の属性を持つ話としては、《春秋元命苞》に”火が離れて鳳となる”と、火の中から生まれた記述があります。また、古の蔡衡曰く、”鳳には五種有、赤は鳳也、青は鸞也、黄は鹓鶵也、白を鴻鵠也、紫は鸑鷟也。”と、鳳鳥は一種類のみではなく五種類の亜種がおり、それぞれ色が異なる、という旨の記述を見ることができます。
昔の人は別々の方角を別々の霊獣に与えてそれぞれを代表させました。その中で南方を与えられた霊獣が即ち鳳鳥であり、五行学説中で南の方角で火と赤に属す霊獣を朱雀と称します。鳳鳥が南の方角を与えられた後、火の属性をもつことで火のシンボルを得たのか、それとも鳳鳥が火に属することで南の方角のシンボルを得たのか、どちらが先なのか今となってはわかりません。いずれにせよ、現在では火と南が属性となっています。
鳳凰の原型は、キンケイ、孔雀、鷹、鷲、白鳥、燕など多種多様で、インドのガルーダが元になったとも言われています。また、鳳凰は”鳥類”の長で、”爬虫類”の長の龍と伝説中で次第に一対をなすようになり、多様に変化し、美学、道徳を持ち、民俗中でお互いを補い合うような形態を持つようになりました。このため鳳凰と龍の組み合わせは縁起がいいとされています。
陰と陽は性別にも適応されており、女性が陰、男性が陽とされていますが、鳳凰と龍にも当てはめられます。鳳凰は五行の火であるため一度は陽とみなされ、雄性を表しました。一方の龍は五行の水で陰とみなされ、雌性を表しました。しかし、龍の形が帝王に気に入られてから後は、龍が陽の象徴と変わり、鳳は陰陽併せ持つ(鳳が雄で陽、凰が雌で陰)ようになりました。その後、鳳凰は龍と一対であるために、次第に純粋な陰の象徴となって行きました。(陰陽併せ持つ霊獣は他に麒麟がいます。雄を麒といって陽を表し、雌を麟といって陰を表します。)
玄鳥(黒い鳥の意味で燕のこと)の説明は《詩経 商頌 燕》に見られ、天命を持った玄鳥が降りてきて契を生み契の子孫である商湯が夏王朝を滅亡さ商王朝(殷)を建国した。殷商の後代の人々は自分の祖先はこの玄鳥から生まれて強大な商王朝を打ち立てた、と言いました。これは玄鳥が商の人々の祖先となったということを意味しています。
契に関しては以下をご覧ください!
商湯に関しては以下をご覧ください!
《史記 殷本記》にもこの歴史が記載されています。”殷王朝の始祖といわれている契は、母である有娀氏の娘で、帝嚳の次妃となった簡狄が、三人で水浴びをしている時に玄鳥の卵を見つけ、簡狄がその卵を食べたために身ごもって生まれた。”とあります。
帝嚳に関しては以下をご覧ください!
言うまでも無く玄鳥は鳳凰の伝説で、鳳凰は宗教神話の発展と共に形態を変えていきました。鳳凰が歴史の中に組み込まれていった結果、様々な伝説が生み出されています。道教では煉丹術(不死の薬である丹を作る術)が盛んにおこなわれていましたので、朱雀と言う名前もこの煉丹術の用語として用いられています。
《雲笈七籖》の第七十二巻で《古経》を引用し、”四神之丹”とあり、即ち、朱雀は南方・丙丁(五行で用いる十干、甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸の丙と丁で火と南を表す。)・火・朱砂(硫化水銀で赤い色をしている)也、剖液は龍と成り、結気は鳥と成る、その気は噴出し天となり、その質はしばらくして地となる。大丹の根となり、火を近づけると即ち飛び、故に朱雀の名前を与えられたといいます。
難しい記述となり恐縮ですが、硫化水銀は古くから朱色の墨として使用されてきました。水銀には不死の効果があるとも信じられており、秦の始皇帝の墓にも水銀が使用されたこともわかっています。この水銀と硫黄の化合物である硫化水銀を分解して水銀を得る際には、加熱しますがこの際に二酸化硫黄が発生します。二酸化硫黄が発生する様子を朱雀に、そしてできた水銀を青龍にたとえています。ちなみに朱砂とは辰砂とも言い、ヨーロッパでは別名賢者の石とも呼ばれていました。古くから赤い墨汁である朱墨に使用されていました。
日本では丹(に)とも呼ばれています。各四神の季節と方角の表示ですが、青龍の方位は東で、春を象徴し、五行中での属性は木です。白虎の方位は西で、秋を象徴し、五行中での属性は金属です。朱雀の方位は南で、夏を象徴し、五行中での属性は火です。玄武の方位は北で、冬を象徴し、五行中での属性は水です。また、土属性は中原の地ですが黄龍の場合もあります。四神は古代から伝わる中国の五行説とよく噛み合っています。
日本の漢字 | 読み | 中国の漢字 | 読み | 守護している方角 | 司る季節 | 象徴する色 | 五行 |
青龍 | せいりゅう | 青龙 | チンロン | 東 | 春 | 緑(青) | 木 |
朱雀 | すざく | 朱雀 | ジュチュエ | 南 | 夏 | 赤(朱) | 火 |
白虎 | びゃっこ | 白虎 | バイフー | 西 | 秋 | 白 | 金 |
玄武 | げんぶ | 玄武 | シュエンウー | 北 | 冬 | 黒 | 水 |
黄龍 | こうりゅう | 黄龙 | ホアンロン | 中央 | 土用 | 黄色 | 土 |
今回は、四神、四象などと呼ばれている青龍、朱雀、白虎、玄武の内、朱雀について書いてみました。朱雀は鳳凰から派生したものでほぼ鳳凰と同じですが、南の方角と火と赤という属性が与えられているために鳳凰とはちょっと違います。そもそも鳳凰は礼記にある災いに対する霊獣で平安を象徴し、朱雀は陰陽五行から生まれて火や夏、南を象徴します。もし朱雀が南はもう飽きたので南を捨てまーす。
火も火事が怖いのでもういいや。それに赤いのも牛が向かってきそうなので流行の色に染めなおしちゃおう!といって自由気ままなさすらいの鳳鳥になると鳳凰と呼んでいいのでしょうか!?鳳凰の亜種も予想以上に沢山あります。いつも思うのですが、中国においてこの手の話の広がり方、朱雀でもキョンシーでも種類の多さは完全に中二病の領域でしょう。気になるところでは、朱雀と鳳凰はどっちが格上かといわれると、微妙に黙り込んでしまいます。朱雀自体は鳳凰をモデルとして派生したものなので、オリジナルである鳳凰の方が上といえば上でしょうか。
中国では、龍と鳳凰は一対という考えがあります。有名なところでは、伏竜鳳雛(ふくりょうほうすう)という言葉があります。三国志が好きな方には馴染みのありすぎる言葉で、世に埋もれた才能ある人を指し、仕官前の諸葛亮、龐統のことです。この言葉でも龍と鳳凰が使われています。また、昔は龍が陰で鳳凰が陽で、時間がたつにつれて龍が陽で鳳凰が陰となりましたが、どちらが陰でも陽でもどちらもすんなり受け入れられます。
日本では京都に朱雀大路、朱雀門と言う名称が付けられています。もちろん方角は南に関係しており、宮殿から南へと延びる道及びその道筋にある門のことです。七世紀の終わりに出来た藤原京にその名が出てきます。七世紀から八世紀にかけて作られたキトラ古墳の壁画にも四神(玄武は破損)が描かれています。鳳凰は京都の宇治平等院鳳凰堂や金閣寺の屋根の上に乗っかっていますので、これらは中国の神獣たちが古くから日本に入ってきており信仰されてきた証拠と言えます。
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