第十八巻:捜神記を翻訳してみた

干宝の捜神記第十八巻です。この巻は狐狸が化けた鬼怪が多く書かれています。昔の中国の鬼怪に対する捉え方がよくわかる巻ですね。このような怪物は魑魅魍魎とも呼ばれており、長いこと時がたち、様々な能力を獲得した怪物を言います。魑魅魍魎に変わるのは木でも石でもいいのですが、知能が高く人に化ける話は狐の魑魅魍魎が多いです。

  • 細腰

張奮は東漢の魏郡の人で、実家は非常に裕福であったが後に忽然と衰退し。財産を失った。そのため、家を程応に売ってしまった。程応がその家に移り住むと、家族は皆病気になったため、程応はその家を近所の何文に売ってしまった。何文は家を買った後に一人先に大刀を持って家に入り、夜になると北面の堂屋へと行き、梁へと登り身を隠した。

夜も深まったころ、忽然と身長が一丈余りで高い帽子を被り、黄色い衣服を着ている人物が現れて堂屋に入ってくると大声で、”細腰。”と叫んだ。細腰はその呼びかけに答えた。黄色の衣服の人物は、”家の中に生きた人間の気配がするがなぜだ?”と聞くと、細腰は生きた人間はいないと答えると、黄色の衣服の人物は離れて行った。その後すぐに、また高い帽子をかぶった人物が入ってきたが、その人物は青色の衣服を着ており、続いて高い帽子をかぶり、白色の衣服を着た人物も入ってきた。彼らは細腰に先ほどの黄色い衣服の人物と全く同じ質問をした。

空が明るくなったころに、何文は天上から堂屋へと降り、先ほどの人物たちと同じ方法で細腰に呼びかけた。何文は細腰に、”さっきの黄色の服を着た人物は誰だ?”と問うと、細腰は、”あの人物は黄金で、堂屋の西の壁の下に埋まっています。”と答えた。何文は続けて、”青色の衣服の人物は誰だ?”と聞くと、細腰は、”あの人物は銅銭で、堂屋の正面から五里ほど行った場所にいます。”と答えた。何文はさらに、”では白色の衣服の人物は誰だ?”と聞くと、細腰は、”あの人物は白銀で、壁の東北の柱の下面にいます。”と答えた。最後に、”お前は誰だ?”と聞くと、”私は木杵で、今はかまどの下にいます。”と答えた。

夜が明けると、何文は細腰が言った場所を掘ってみると、五百斤の黄金、五百斤の白銀、千万貫の銅銭を得た。その後、木杵を燃やしてしまった。これ以降、何文は非常に裕福になり、家も安寧であった。

  • 樹神黄祖

盧江郡の龍舒県(りゅうじょけん)に、陸亭と言う場所があった。一本の大きな木が、陸亭に流れる水辺のそばにあり、高さは数十丈で、数千もの黄鳥が木の上に巣をかけていた。当時、盧江に大干ばつが続いており、長老が集まって相談し、「あの木は年中黄色い気配が漂っているので、きっと神霊に違いない。あの木へ雨を祈願するのはどうであろう。」と相談していた。以降、長老たちは供え物を供えて大樹に祈祷を行った。

陸亭には李憲と言う未亡人がおり、彼女は夜に起きると、忽然と部屋の中にきらびやかな衣装を着た婦人を見た。その婦人は李憲に、「私は樹神の黄祖と言い、雲を興し波を作り、風を呼び雨を降らせることが出来ます。あなたの品行は高潔ですので、私はあなたを助けに来ました。今朝、長老たちが来て雨を祈願しましたので、私はこの件を天帝に上申しました。明日の昼に大雨が降るでしょう。」と言った。

果たして、次の日の昼に傾盆の大雨が降った。当地の人は樹神黄祖のために廟を建てた。李憲は、「長老を始め皆様ここにいらっしゃり、私は水辺に住んでいますので、鯉を贈ります。」と言い終わると、数十匹の鯉が堂屋の中に降ってきた。座っていた人々は皆驚いた。

一年後、黄祖は李憲に、「この地方で大きな戦いが起こるでしょう。今日、私はあなたにお別れを言いに来ました。」と言うと、黄祖は玉環を取り出して李憲に贈り、「この玉環を身に着けていると禍から逃れることが出来ます。」と言った。そのご、劉表と袁術が領土を巡って戦争が起こり、龍舒県の人々は皆、その地を離れたが、李憲の郷里だけは戦禍を免れた。

  • 陸敬叔が怪を煮る

呉国の先帝の頃、建安太守の陸敬叔は人を派遣して一本の大樟樹を伐らせた。何度か斧で伐ると、木から血が流れ出た。木を伐り終えるころ、人面で犬の身体をした怪物が木の中から出てきた。陸敬叔はそのかいぶつを指さして、「これは彭侯と言う。」と言った。そのあと、陸敬叔はその怪物を煮て食べ、その味は犬の肉と大差はなかった。古書の白澤図にも、「木の中で精となった怪物は彭侯と言い、その形状は黒犬のようであるが、尻尾は無く、その肉は煮ると食べれる。」と記載されている。

  • 老狸が董仲舒を詣でる

董仲舒が読んでいた本を閉じると、客人が来訪した。董仲舒はその客人が普通の人間ではないことを知った。客人は、「天は雨を降らせる必要がある。」と言うと、董仲舒は冗談交じりに、「久しく巣の中に住み風を知り、久しく洞穴に住み雨を知り、あなたが狐狸ではないならきっとはつかねずみでしょう。」と言い終わると、客人は老狐狸に変わった。

  • 張華が知で狐魅を擒える

張華は字を茂先といい、晋恵帝の時、司空に任ぜられた。当時、燕の昭王の墓前には斑狐(まだらぎつね)がおり、千年の修練を経て変化の能力を獲得した。ある日、斑狐は一書生に変化し、張華に謁見しに行こうとした。そして墓前の華表に、”私のこの書生の姿で、張司空にお会いできますか?”と尋ねた。華表は、”上手い聞き方です。もちろん駄目だとは言えません。ただし、張公は博学の知恵者ですので、騙すことは非常に難しいです。会うと必ず辱められ、帰ってこれないでしょう。またあなたの千年間修練したその体を失い、私も含めて禍が訪れるでしょう。”と言った。斑狐は従わず、張華に謁見するために自分の名前を書いて謁見を求めた。

張華は書生の洗練された様を見て驚いた。潔白玉の如し、その立ち居振る舞いは洗練されており、優雅であった。さらにその論はこれまで聞いたことがないほど明晰であった。史書を評価し、百家の考えを論じ、老荘の思想を分析した。古代の聖人の哲学を納め、天文地理に通じ、儒家の学派にも習熟し、礼儀を理解しており、張華はただ耳を傾けるしかなかった。

そして、張華はため息とともに、”天下にこのような少年が居るなどありえない。もし鬼魅でなければすなわち狐狸に違いない。”と言い、寝台を掃除させ、書生に留まるように言い、人を遣わし監視させた。少年は張華に、”張司空は尊賢で多くの賢士、才能を持つ人々がそばに居り弱者を助けています。なぜ学問のある者を憎むのです?墨子の言う兼愛はよもやこの様なものではないではないですよね?”と言い終わると、張華に別れを告げたが、門は衛兵により閉ざされており出れなかった。

少年は再度張華に対して、”あなたは武器を持たせて兵士に門を守らせています。きっと私に対して疑いを持っているのでしょう。私の心配は天下の人がこの件以降に口を閉ざして物を言わず、才能ある儒者があなたの大門を敲くことを望んでいてもあえて門を敲かないようになることです。私はあなたを惜しんでいるのです。”と言った。しかし、張華は動じず、少年をさらに厳重に監視した。

豊城県令の雷煥は字を孔章と言い、博識な人物として知られており、この時張華に会いに来ていた。張華は雷煥に少年の一件を話すと、雷煥は、「もし疑うのならなぜ犬を使って妖怪かどうか調べないのです?」と言った。張華は人に犬を連れて来させ、狐狸が化けている書生に合わせたが、うろたえる様子は微塵もなかった。狐狸は。”私の才は天性のものです。あなたは私が妖怪であると疑い犬で試しました。千回でも一万回でも試していただいて構いませんが、私を傷つけることはできません。”といった。

狐狸の話を聞くと張華はさらに激怒して、「鬼怪に違いない。人々は鬼怪が犬を恐れるというがそれは数百年生きた妖怪の事です。千年以上生きた老怪物は犬ではわかりません。しかし、老怪物は千年以上生きた枯れ木を燃やした光を当てると原型が現れるといいます。」と言った。雷煥は、「千年の神木はどこにあるのです?」と言った。張華は、「世間の噂では燕昭王の墓前の華表木が千年の神木だと言います。」というと、すぐに兵士を燕昭王の墓地へ華表を切りに行かせた。

墓地へ到着すると、突然青い衣を着た子供が天から降りてきて兵士たちに、「何しに来た?」と聞いた。兵士たちは、「張司空がこのあたりから来た弁舌爽やかな少年が妖怪であると疑っている。それで私を派遣してこの華表の木を切ってこさせ、その火で少年を照らすのだ。」と答えた。

青衣の子供は、「あの老狐狸はあまり賢くなかった。私の勧告を聞かず、災いが自分にも及んできた。どこに逃げ場があるのだ?」と言い終わると、子供は大声で泣き、消えてしまった。兵士は木を切ると、木の内側から大量の血が流れだした。

張華は華表木を受け取ると少年書生を照らした。すると狐狸の原形が浮かび上がり、花斑狐狸であった。張華は、「この二匹の畜生は私に会わなければ千年の内に捕らえることは不可能であったろう。」と言うと、張華は千年狐狸を煮殺してしまいました。

  • 句容の狸婢

句容県の麋村の村民である黄審が田を耕していると、女性が一人田の脇を通り過ぎた。その女性はあぜ道を歩き、東方から歩いており、すぐにまた来た道を帰って行った。最初は、黄審はその女性が人間だと思っていたので、彼女を見るたびに奇妙に思っていた。そして黄審は、「ご婦人よ、毎回どこから来ているのですか。」と婦人に聞くと、婦人は足を止めてただ黄審をみて笑うだけで話はせず、また歩き始めた。黄審は更に疑い、身近に長い鎌を用意し、婦人が戻ってくるのを待ったが、敢えて婦人は斬らずに、連れの下女を斬りつけた。婦人は驚き、狐狸に変わり走って逃げ、下女を見ると狐狸の尾が一本あった。黄審は狐狸を追いかけたが、追いつけなかった。その後、この狐狸がある洞穴に出没したのを見た人がいたので、その洞穴を掘りに行き、一匹の尾がない狐狸を掘り起こした。

  • 宋大賢が鬼を殺す

南陽郡の西郊に亭が一軒あったが、誰もそこに泊まろうとしなかった。なぜなら、そこに泊まると禍に遇うということであった。城の中に宋大賢と言う人物がおり、正道を持って生き、鬼神など信じなかった。ある日、宋大賢はこの亭で一泊した。夜になると、亭の楼上で琴を弾いており、その時には身を守る武器などは持っていなかった。夜半の時分、忽然と一匹の鬼が楼上へ登ってきて宋大賢に話しかけた。その見た目は青い顔で牙をむき出し、銅の鈴のような眼で睨み、その様子は非常に恐ろしかった。

宋大賢は琴を弾いたまま平常であり、その鬼に関わらずに無視していると、鬼は失望した様子で去って行った。鬼は街へ行き死人の頭部と取ってくると、戻ってきて宋大賢に、「お前は少し寝るか?」と言った。言い終わると、死人の頭部を宋大賢の前に放り投げた。宋大賢は、「ふむ、今日寝る時の枕に使おう、このような物をちょうど探していたのだ。」と言った。鬼はまた失望して去った。大分時間が経ったときに、鬼はまたやってきて、宋大賢に、「俺と素手で組み合わないか?」と言うと、宋大賢は、「よろしい。」と言い終わらないうちに、鬼は飛び掛かってきた。宋大賢は手を伸ばして鬼の腰を掴むと、鬼は慌てて、「死ぬ。」と叫んだ。宋大賢は遂に鬼を殺した。次の日見てみると、一匹の老狐狸が死んでいた。これ以降、その亭には鬼怪が出現することはなかった。

  • 到伯夷が魅を撃する

北部督郵である到伯夷は西平郡の人で、歳は三十歳ほどであった。到伯夷は長沙太守の到若章の孫で、能力は傑出しており決断力があった。ある日の黄昏時、到伯夷の一行は一軒の亭の前に来た時に、到伯夷は前を行く部下に亭に駐屯するように命じた。録事<em>掾(ろくじじょう)は到伯夷に、「まだ空は明るいので、次の亭まで行くとこが出来ます。」と言った。到伯夷は、「私は文書を書かなければならないのだ。」と言ったので、隊員たちはその亭で休むことになった。吏卒は恐ろしく感じ、神霊を祭祀した方がいいのではないかと提言した。この時、到伯夷は部下を遣わして、「督郵は楼に登り見たいとおっしゃっているので、直ちに掃除するように。」と言わせた。しばらくすると、到伯夷は一人で楼の上へ行ってしまった。その時、空はまだ暗くなかったが、楼の上から下まで灯火で照らされていた。到伯夷は、「私は道学の問題を考えたいので、火を見ることが出来ないのだ。すぐに消してくれ。」と命じた。吏卒は何か変化を感じ、灯火が必要だと思い、灯火を壷の中に入れて光が漏れないようにした。

空が暗くなると、到伯夷は衣服を整理した後に読書を始めた。六甲、孝経、易を読んだ後、到伯夷は就寝した。しばらく眠ると、到伯夷は頭部を東側へと向け直し、長い布で自身の両足を巻き、頭巾と帽子をかぶり、その後、腰帯を解き、宝剣を抜いた。深夜、部屋の中に四、五尺ほどの長さの黒い影が現れると、その影はゆっくりと高くなっていき、到伯夷の部屋の前まで行くと、到伯夷に飛び掛かった。到伯夷は布団をその上にかぶせると、取っ組み合いになった。格闘の最中、到伯夷の脚に巻いていた布は落ち、脚がむき出しになりながら戦い、何度か鬼怪を逃がしそうになった。到伯夷は宝剣、腰帯で鬼怪の脚を攻撃し、下の階へ照明を持ってあがってくるように叫んだ。灯火で照らされると、一匹の紅色の老狐狸がおり、全身には毛は無く、到伯夷はその狐狸を焼き殺させた。

次の日の早朝、到伯夷は楼上の部屋を開けて捜査させた。その結果、百ほどもの鬼怪に剃られた人間の髪の束が発見された。これ以降、この亭の鬼怪は出現しなくなった。

  • 胡博士

呉国に一人の白髪の書生がおり、自らを胡博士と称し、学校を開き生徒を集め学生に教えた。ある日、学生たちが彼を探しても見つからなかった。九月九日の重陽節の日に、一群の書生が共に登山し、遊覧していると忽然と胡博士が講義をしている声が聞こえた。書生たちは驚き、下人を呼んで彼を探させた。その結果、からの墓の中に狐狸たちが集まっており、人が来ると狐狸は逃げて行ったが、ただ一匹だけ逃げずにその場を動かなかった。この狐狸があの白髪の書生の胡博士であったのだ。

  • 謝鯤が鹿怪を擒する

陳郡の人である謝鯤は、災いを避けるために病と称して職務を辞し、豫章郡へとやってきて隠居した。ある日、空き家となった亭を見つけ、夜になるとその亭で宿泊した。以前、その場所では夜になるとよく人が殺されていた。夜更けになると、黄色の衣服を着た人物が窓の外で、「幼輿、扉を開けてくれないか?」と謝鯤の字を叫んでいた。謝鯤は毅然として恐れず、その人物に腕を窓から部屋の中へと伸ばすように言った。すると、その人物は腕を伸ばしたので、謝鯤はすぐに手を取って引っ張った。その人物は懸命に足掻き、腕がもげた後に逃げてしまった。次の日、もいだ腕を見てみると、それは鹿の脚であった。謝鯤は血の跡をたどってみると、遂にその鹿を捕獲した。この後、その亭には鬼怪は出没することはなかった。

  • 猪臂の金鈴

晋朝の時、王という姓の読書人がおり、家は呉郡にあった。ある日、彼は船に乗って家に帰る途中に曲阿県を経過した。空が暗くなった時、船は堤に乗り上げた。その時、彼は堤の上に十七、八歳の娘を見て、彼女に船で泊まるようにと叫んだ。明るくなったころ、金の鈴を取り出し娘の手に結んだ。その後、部下に娘を家まで送らせたが、娘の家に着くと誰もおらず、娘もいなくなっていたので、豚の柵へと近づいてみて様子を見てみると、一頭の母豚の腕に金の鈴が結ばれているのを見た。

  • 王周南

三国時代の曹魏の正始年間に、中山郡の王周南が襄邑県令に任ぜられた。ある日、一匹の鼠が忽然と洞穴の中から出てきて、公堂まで走ってきて王周南に、「王周南、あなたは何月何日に死んでしまう。」と言った。王周南は話をせずに、急いで追いかけると、鼠は洞穴へ逃げて身を隠した。

その日が来ると、鼠はまたやってきたが、この時は黒い衣服を着ており、頭には頭巾をかぶり、王周南に、「周南、あなたは今日の昼に死んでしまう。」と言った。王周南は今度も話をせず、鼠はまた洞穴へと入って行った。しばらくして鼠はまた出てきて、これを何度も繰り返し、毎回同じ話をした。

昼になると鼠はまた、「周南、あなたは返答しないので死んでしまうのに、私はまだ何を言えるのか?」と言い終わると、鼠は地面に倒れて死んでしまった。鼠が着ていた衣服と帽子は翼がないのに飛んでいった。王周南は近づいてみてみると、死んだ鼠は他の鼠と何の違いもなかった。

  • 安陽亭の三怪

安陽県の城の南に亭があった。かつて人が殺されたことがあったので、その亭に夜泊まることはできなかった。術に通じている一人の書生が一度その亭へと宿を頼んだ。亭の付近の村人は、「そこの宿には泊まれません。以前泊まった人で生きて出てきた者はいません。」と言った。書生は、「御心配には及びません。気をつけますので。」と言った。そして、書生は亭の中の客間で、夜にずっと読書をし、読書が終わった夜更けに就寝した。

夜半に、黒の単衣を着た人物が、門の外で、「亭主、亭主。」と呼びかけると、亭主は返答した。黒衣の人物は、「亭の中に人がいるか見えるか?」と尋ねると、亭主は、「ああ、書生がいて読書をしていたが、先ほど休んだようだが、まだ寝付いてはいないだろう。」と答えた。門外の人物が軽くため息をついて去っていった。しばらくすると、今度は紅の頭巾をかぶった人物が亭主に、先ほどの人物と同じことを問いかけると、軽くため息をついて去って行った。この五、亭の中は静かになった。

書生は人が来れないことを知り、すぐに身を起こして先ほど呼びかけていたところへと行き、真似るように、「亭主。」と呼びかけた。亭主が答えると、書生は、「亭の中に人はいるか?」と尋ねると、亭主の答えは先ほどと一緒であった。書生は更に、「先ほどの黒衣の人物は誰だ?」と聞くと、亭主は、「北屋の老母猪だ。」と答えた。書生は今度は、「紅の頭巾の人物は誰だ?」と聞くと、亭主は、「西屋の老公鶏だ。」と答えた。最後に書生は、「お前は誰だ?」と聞くと、亭主は、「俺は老蝎だ。」と言った。そして、書生は眠らず、暗闇で書を読みながら夜明けを待った。

空が明るくなると、亭の近所の村人たちが亭に様子を見にやってきて、書生を見ると非常に驚き、「あなたはどうして生きているのですか?」と聞いた。書生は、「出来るだけ早く剣を持って来てください。我々で鬼怪を捕らえましょう。」と言った。書生は剣を手に持って、昨日聞いた場所を探すと、果たして一匹の琵琶ほどの大きさの老蝎を書生が見つけた。そのご、西屋で老公鶏を、北屋で老母猪を探し出した。書生は三匹の鬼怪を皆殺してしまった。この亭の禍は取り除かれ、これ以降再び災禍が起こることはなかった。

  • 湯応が二怪を誅殺する

三国時代、東呉の盧陵郡の亭楼には常に鬼怪が出没しており、ここに宿泊する人は皆、死んでしまっていた。この後、盧陵の官吏は誰も宿泊しなかった。丹陽郡の湯応という人物は武芸に通じ、胆が据わっていた。ある日、湯応が用事で盧陵へとやってきた際に、その亭楼に宿泊した。亭の管理人は、この亭には宿泊できないことを伝えても湯応だけは聞かずに、供の者を他の宿へ宿泊させ、大刀を持ち湯応は一人でその亭に留まった。

夜が更けると、忽然と外から門を敲く音が聞こえたので、湯応は、「門を敲いているのは誰だ。」と聞いた。すると、その人物は、「部郡が挨拶に来ました。」と言った。湯応はその人物を中に入れると、部郡は時候の挨拶をすると帰って行った。その後すぐに、再び門を敲く音が聞こえ、その人物は自己紹介をして、「郡守が挨拶に来ました。」と言った。湯応はまたその人物を中に入れると、その人物は黒い衣服を着ていた。郡守が去った後、湯応は前の二人は人であると思ったので、何の疑いも持たなかった。

すると、再び門を敲く音が聞こえ、その人物は、「部郡、郡守が挨拶に来ました。」と言った。この時、湯応には疑いが生まれており、心の中で、「今は夜更けなので挨拶に来る時間ではない。さらに。部郡と郡守が一緒に来るはずがないではないか。」と思い、湯応は、鬼怪がやってきたと思い、大刀を持って彼らを出迎えに行った。門を開いた後、二人の華麗に着飾った二人の人物が共に入ってきた。座った後、郡守を名乗る人物は湯応を話しをした。話をしている時、部郡は身を起こして湯応の背後へと回ったので、湯応は振り向くと共に刀で斬りつけた。郡守がこれを見ると、立ち上がって逃げ出した。湯応は刀を持ち追いかけ、亭楼の裏の壁で郡守を何度か斬りつけると、帰って寝てしまた。

空が明るくなると、湯応は人を引き連れて血の跡をたどると、二頭の殺された怪物を発見した。郡守を自称したのは老豚であり、部郡は老狐狸であった。これ以降、その亭楼には鬼怪が出ることはなくなった。

出典:古詩文網

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