天狗:中国の天狗は果てして鼻が長いのか?

天狗(てんぐ tian1gou3 ティエンゴウ)

天狗は中国に古くから伝わる伝説上の生き物です。最も早い記載は山海経に見られ、山海経・五蔵山経西山経には、”さらに西へ三百里に陰山があった。浊浴水はこの山より流れ出て南に向かい蕃澤へと注いだ。水中には多くの五彩の模様がある貝殻があった。山中には野獣がおり形状は野猫であるが白い頭部を持ち名を天狗と言った。その発する声は”猫猫”(現代風にいうとマオマオ)の読み方に似ていた。人が飼うと凶邪の気を避けると言う。”と記載があります。

山海経・五蔵山経西山経に関しては以下をご覧ください!

山海経を読もう!No,2 五蔵山経西山経編

天狗という漢字の狗は犬を意味しておりますが、山海経中では猫に似た白い頭部を持つ動物として描かれています。さらに、凶を避ける吉獣としても描かれており古くは吉祥を持たらす動物でした。しかし、昔の中国では天空の星を見て吉凶を判断しており、いつの日か天狗は凶星の名称に変わってしまい、天から災いをもたらすと恐れられるようになりました。




《史記・天官》には、”天狗は大奔星のようで声を発し、地面にいると犬のようであり落ちた場所は火炎が起こり火光のように見える。炎は天まで燃え上がるようである。”とあり天狗が天から火災をもたらす様子が書かれています。

古代中国では現代と比較すると天文学の知識は乏しいものでした。そのため、日食や月食は天狗が太陽を食べている、或いは天狗が月を食べているなどと説明していました。これらの現象が起こった際には人々は銅鑼を叩き爆竹を鳴らして天狗を驚かせて追い払おうとしたと言います。

日本の天狗は中国に源流を持つかどうかはっきりとはわかりませんが、中国とは全く異なり山伏から発展して鼻が長く翼を持つ形状として書かれるようになっています。

  • 后羿の伝説中に見る天狗

伝説によれば后羿(こうげい)は九個の太陽を射落としてその害を取り除きました。王母娘娘はこの功績を称えて羿に霊薬を送りました。しかし、この霊薬は妻である嫦娥(じょうが)によって飲まれてしまい、月へ行ってしまいました。門外にいた羿の猟犬である黒耳がこれを見て吠えながら屋内へと走り込み残った霊薬を舐め尽くしました。嫦娥は黒耳の吠える声を聞き慌てて月へと行きました。黒耳の毛は逆立ち体はだんだん大きくなり、月に飛びかかり嫦娥を月ごと丸呑みしてしまいました。

玉帝と王母娘娘は月が黒犬により飲み込まれたことを知り。天兵に捕縛するよう命じました。黒犬は捕らえられた後に、王母娘娘はこの后羿の黒犬を天狗として南天門を守護させました。黒耳は恩に感じ、月と嫦娥を吐き出したと言います。

嫦娥に関しては以下をご覧ください!

嫦娥:月を生んだ母常羲から生まれ、月の女神になった后羿の妻

  • 天狗に関する諸説

中国の天狗の由来には諸説ありますがどれも犬に由来しており、主な説は以下の三つです。

1. 諦聴説

観音菩薩の下で伏せている霊獣の事を指しています。諦聴は主人を守り駆邪避悪で善悪を区別し神威は天地通じ財路を大きく開くと言います。諦聴はもともと白犬でしたがこれは地蔵法門が孝を以って基と為すことに由来しています。犬自体は忠誠であり、文殊の雄獅と同じく智慧も表しています。

2. 禍斗説

禍斗が現れた場所には火災が発生すると言うため、不祥の兆と見做されています。禍斗はもともと黒犬に流星の破片が当たることで生まれたと言います。火を食べることでも有名で火炎を吐き出すと言います。




禍斗に関しては以下をご覧ください!

禍斗:火焔を食べて炎を巻き起こす火神の助手

3. 盤瓠説

盤瓠は犬ですが、その功績から帝嚳の娘を娶って中国の少数民族の畲族の祖となったとされています。盤瓠はもともと五色の犬で帝嚳が戎狄の反乱を平定に貢献しています。

盤瓠に関しては以下をご覧ください!

帝嚳:神話時代の名君として名高い五帝の一

出典:baidu

今回は中国の天狗のお話でした。中国の天狗はもともと山中に住む猫のような生き物でしたが、時代とともに禍斗などもともとの漢字の意味である犬の神獣と同一視になり、やがて災いをもたらす凶星になってしまいました。従って、中国の天狗は人間の姿をしておらず犬であり鼻は長くはありません。

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