騰蛇とは中国伝説の蛇の神獣で古くは三国時代の曹操から詩に詠まれています

螣蛇(とうだ teng2she2 トンシォー)

螣蛇とは、騰蛇とも書きますが、中国の伝説中に出てくる飛行能力を持った蛇です。様々な古い文献中に出てきており、様々な意味を持っているために神獣と称されます。

螣蛇が出てくる書物に荀子の《勧学》があります。この本には、”螣蛇は足がないが飛べる。しかし、モモンガは五技があるが飛行はそれほどうまくない。”とあります。これは足がない騰蛇が空を自由に飛び回れることで、空を滑空できて木にも登れる器用なモモンガよりも勝っていることを例えており、凡人でも一心不乱に一つ物事をすすめると、足が無くても騰蛇のように空を自由に飛べるようになるので最後には必ず成功することを表しています。

《爾雅・釈魚》中には、”螣はすなわち螣蛇のことで、東晋の郭璞は螣蛇を龍類に分類し、雲霧中を自由に飛び回ることができた、とした。”とあります。螣蛇は神亀に用いられる尊称でもありますので、このことから玄武の分身であるという見方もあります。

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《後漢書・張衝伝》には、張衝がしたためた《思玄賦》に、”玄武が縮こまって甲羅の中に入り、そこに螣蛇が融合した。”と書いています。もともと玄武は亀と蛇が合わさった形状ですので、玄武と螣蛇のイメージが合致することにはあまり違和感がありません。

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玄武:中国の神獣、四象、霊獣特集

三国志の曹操の有名な詩である《亀雖寿》において、曹操は”神亀雖寿、猶有竟時。螣蛇乗霧、終為土灰。…”と詠んでいます。また、螣蛇は五行の神獣から独立した存在であり、中央を守護する存在で属性となる色は黄色である、という解釈もあります。

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ここで言う五方とは、陰陽五行学説の五つの方角のこと、すなわち東西南北と中央を表しています。それぞれの方角を守護している神獣がおり、東は青龍、西は白虎、南は朱雀、北は玄武です。中央には通常黄龍もしくは黄麟ですが、これとは別に中央に螣蛇がいるという解釈です。




また、韓非子・十過篇で黄帝の封禅の儀の様子が次のように描かれています。

黄帝は鬼神と共に泰山に登った。象に車をひかせ、六匹の蛟龍(こうりゅう)と毘方(びほう、火鴉とも。丹頂鶴に似た神鳥)を従えていた。蚩尤(しゆう)が前に居り、風伯が道を掃き、雨師が道を整え、虎と狼がその前におり、鬼神は後方、螣蛇は地に伏し、鳳皇は空を覆い、鬼神と共に清角を奏でた。とあります。清角とは古代の悲しみの強い曲です。この様子から、螣蛇は黄帝を護る神獣と見て取れます。

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黄帝:中国の始祖であり古代神話中最大の功労者

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黄龍:中国の神獣、四象、霊獣特集

さらに、蛇が千年修行すると螣になり、螣が天を経て神龍になり、その能力は天龍や応龍と大差はない、という言い伝えもあり龍の一種とみられる場合もあり、八荒(中原から遠く離れた地)まで直接飛んでいくことができた、などという説もあります。その他には、錦螣蛇と言い、歴代王朝の服飾の中のデザインの一つとなっています。多くは羽織の束帯上に華美な装飾として施されていました。

  • 奇門遁甲と六壬式中の螣蛇

奇門遁甲は式占という占いの一種ですが、古くは黄帝時代の伝説として残されており、黄帝と蚩尤との最終決戦の前に、崑崙山の西母王から託された九天玄女により黄帝側に授けられました。

螣蛇はこの奇門中の八神の一柱となっています。八神とは、直符、螣蛇、太陰、六合、勾陳(白虎の説もあり)、朱雀(玄武の説もあり)、九地、九天です。この奇門遁甲中では、螣蛇は火神であり、神性は柔らかく口に毒があり、火光、怪異、驚恐、夢寐、妖邪を司り、人心を惑わす虚詐の神として描かれています。

奇門遁甲と並んで中国の式占中の一つの六壬式の中に十二天将があります。十二天将は、貴人、螣蛇、朱雀、六合、勾陳、青龍、天空、白虎、太常、玄武、太陰、天后の十二神です。この十二天将の一柱が螣蛇であり、螣蛇は火炎に包まれた大蛇の形として描かれています。つまり火属性の凶将で驚恐怖畏の前兆となり、この占いの中でも螣蛇は凶将として描かれています。

出典:baidu

螣蛇は蛇が成長した妖怪ですが、蛇が神龍に成長する過程の一種であるとも考えられます。かの三国志の曹操が詩に詠んだように、古くから馴染みのある神獣でした。一説によると螣蛇は中央を護っている黄龍と同等ですので、四象よりも一段高い地位とも取れます。また、空を飛べる上に能力的に応龍に近いという記述もあります。応龍はの戦闘能力は黄帝のライバルであった蚩尤を倒すほどですので、かなり上位ランクの神獣です。この能力を裏付ける神話や逸話がないためにあまり知られていない存在なのだと思います。




一方で占い中では神として扱われておりその地位は決して低いものではなく、朱雀や青龍などの四象と同列に扱われています。螣蛇を概観すると言い伝えと占い中では性質が異なっていることが見て取れると思います。独立した存在であった騰蛇を強引に五行に落とし込んだような印象ですが、言い伝えの中では土属性であり、四象と横並びで黄龍に近く五帝を守護する側として描かれています。また、曹操の詩に詠まれたことや、荀子の本に出てくるなど当時としては悪いイメージはなく馴染みのある神獣だったことが推測されます。

しかし、占い中では火属性で凶将で恐怖など負の象徴を持っています。ちなみに十二天将では玄武や朱雀、白虎も凶将として扱われているので、何を基準にして凶将と吉将が分けられたのかいまいち不明なので、占い中ではとってつけた感がぬぐえません(;´∀`)

いずれにせよ中国神話で確固たる存在感を持っているのがこの神獣螣蛇です。

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