三屍(さんし san1shi1 サンシィー)三尸とも書きます。
三屍は道教の三屍神を指します。道教では人体には上中下の丹田(丹を練る場所)があり、それぞれ神が宿っていると考えられておりこれらの神を総称して三屍と呼びます。その他にも三虫、三彭、三屍神、三毒などと言う呼び方もあります。上屍は装飾を、中屍は滋味を、下屍は淫欲を好むと言います。
初期の道教では、三屍を断ち切り無欲で執着せず、神静性明で善を積むことで仙となる、とあります。また痴、貪、嗔は欲望を生み出す場所とされ、人が死んだあと三屍は屍体から遊離してしまい生前の形状となりこれを鬼と呼びました。《雲笈七籤》の巻八十一には、”死後魂は天に上り、魄は地に入り、三屍は遊離してこれを鬼と言う。”とあります。つまり、鬼とは人の霊魂や遺体が変化してできるのではなく、この遊離した三屍の事なのです。
三屍は上屍を踞と言い、中屍を躓と言い、下屍を蹻と言います。《重修緯書集成》巻六《河図紀命符》には三屍神の事を、”三屍の為す物、魂魄鬼神の属也。人をして早死にせんと欲し、この屍は鬼となり、彷徨い人を食べた。毎回六甲窮日(昔の干支の紀日)になると天が命を司り人の罪を測り、罪が大きい者は紀(数年くらい?)を奪い、小さい者からは算(百日)を奪う。故に仙を求める人はまずは三屍へ行き、無欲で執着せず、神静性明で善を積み、薬を飲むことも有効であり、最終的に仙となる。”とあります。
三屍神は道教の神様ですが、仏教にも倶生神と言う人の罪を測る神様がいます。同じ善悪を推し量る神様でも、道教の三屍神の方が仏教の倶生神よりもことさら酷い性格を持っています。
- 動物としての三屍
三屍は古代中国の動物の分類で人体に寄生する寄生虫の総称でした。古くは郭璞の山海経の注釈中に、”所有している茯苓(ぶくりょうと言い漢方薬の一種)の中で鳴条の野で産出されるものが最も優良であり、これは鳴条の茯苓が三屍を惑わす特殊な効能を持っているからである。”と記されています。
道士葛洪は、”屍”は害虫の名で、”三”はこの害虫の数が膨大であることを表しており人の健康に対して深刻な作用を及ぼすことを意味していると指摘しています。別の道士である陶弘景は、”三”は数であり、三屍とは三種類の最も危険な寄生虫であると指摘しています。陶弘景は《真霊位業図》中で三屍を以下のように詳細に記述しています。
- 真霊位業図中の三屍の描写
上屍は脳の後ろの玉枕穴の内部に寄生している。これは藍緑色の蠕虫の一種であり長さは一般に二寸以内であるが非常に細い。頭部に寄生して頭部内を動き回っていると激痛が走る。魏の曹操が晩年に悩まされた頭痛はこの上屍により引き起こされたのもである。
中屍は背部中央の夹脊穴一帯に寄生する。夹脊穴は背骨の両脇にあり中屍がこの穴の間を移動しても人は異常を感じないと言いう。しかし、一旦中屍が背骨を離れると背中に各種の害を引き起こす。中屍は蠕虫(ミミズのように這う生き物)で、上屍に比べて太く身近く、頭部には綿上の触手があり体は黒色である。
下屍は尾間穴の中に住んでいる。尾間穴は尾間関とも称され、人体の重要な位置である。もし人体を煉丹炉に例えると、尾間穴は炉の底に熱を受ける部分である。これにより、下屍は人に生き死にを決定する。下屍は血紅色であり、全身には細く短い毛が密集しており外見は非常に恐ろしい。その形状に関しては蚕に似ているとも言われてる。別の言い方をすると受精間もない胎児に似ているとも言う。宿主が死ぬと上屍と中屍は宿主の命と共に消散するが、下屍は消滅せずに死者の魂魄を集めて生前と見分けのつかない游魂に変わる。
- 三屍の伝説
宋代の学者である張君房はさらに詳細を調べ、陶弘景の発見した内容に対して三屍は人体の監察神であり、この三位の神様を彭踞、彭躓、彭蹻と言うと補足をしています。毎回庚申の日には三屍は宿主の睡眠中に人体を離れ、冥界に入りその宿主の行いを報告すると言います。冥界ではこれらの行動の記録に基づき人類を裁定すると言います。
この内容に基づき張君房は毎回庚申の日になると終日寝ないように座禅を組み読経しました。張君房は体内に寄生している三屍が自分の身体から出られないため、冥界へ行き自分の行いを報告できずに最終的には自分の名前が司命神の死籍上から消去されることになると信じていました。
これと同時に自身の行動に対して三屍が疑問に思うことを避けるため、郭璞を参考にしてを薬として鳴条の野で産出される茯苓(ぶくりょう)を服用して三屍を混乱させたと言います。
三十年に渡り張君房は庚申の日に睡眠しませんでした。ある一日が終わると彼は突然自分の弟子の面前で白昼に飛昇し消えてしまったと言います。程なくしてある晩に、張君房の弟子のひとりが夢の中に自分の師匠が出てきました。張君房は弟子に向かって、”三屍をだますことで非常に特異な成績を収めてしまったので、自分はその三屍の体内に派遣されてしまい、彭蹻のみっともない監督者となってしまった。”と言ったと言います。
- 道教中の三屍
道教の信仰中では三屍は人体内部の悪欲、私欲、性欲という三種を欲を代表しています。三屍の原型は三種の虫です。この場合の虫は昆虫の事ではなく、蛇や蜥蜴、ミミズなどを含んだ漢字に虫偏のつく小動物全般を指します。道書の《夢三屍説》では、”人体中には三屍虫がいる”とあり、具体的には上屍三虫、中屍三虫、下屍三虫を包括しており、三屍九虫と称されています。日本でも虫の居所が悪いと言う言葉がありますが、この虫は三屍九虫に由来しています。
- 三屍の消滅方法
多くの道書に三屍の消滅方法が記されており、避穀服気、符呪、服薬を以って三虫を駆除する以外に大切なことは庚申を守ることです。避穀とは断食して養生することです。
- 三屍の鬼化
三屍は恐ろしいことに宿主の死後に鬼に変えてしまうと言います。鬼が人体に侵入する方法には二種類あり、一種類目は突然人体に取り付き死者の生前の挙動を表し、取り付いた者の思惟とは無関係であり撞客と称します。この状態は憑りついた鬼が話したいことを言い終えた後に自ら体から離れ、取り付かれた人は正常に回復します。もう一種は特に夜間に歩いていると鬼に出会ってしまう場合です。鬼に出会ったら精神は恍惚となり急病、高熱、扁平イボなど単一のみならず多種の症状が現れると言います。症状は慢性化し現代医学でも根治不能と言います。道教ではこの治療には三屍用の符呪を使用します。符呪により鬼を体から引き離すと翌日には治癒し再発することはないと言います。
出典:baidu
今回は三屍のお話でした。よく鬼と言いますが、鬼と言っても色々とあり例えば有名な鬼に物や動物が長い年月を経て鬼になる魑魅魍魎(ちみもうりょう)がいます。また、三魂七魄と言いう言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、人間には魂と魄が宿っており、死後には魂は天に帰り魄は地に帰ります。しかし、何らかの理由で魄が遺体に残ったままですと、遺体は悪鬼に変わり殭屍(きょうし)則ちキョンシーとなってしまうと言います。
魑魅魍魎に関しては以下をご覧ください!
キョンシーに関しては以下をご覧ください!
三屍はこの魂魄とは別に存在し、死後に遊離して三屍自体が鬼となります。色んな鬼になってしまう可能性があるのでおちおち死ねませんね(;´∀`)
また、三屍をなぜ虫というのか気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、昔の中国では小動物は虫と呼ばれていました。爬虫類、蜥蜴、蛇、蠍、蛙など虫偏がつく漢字は虫でした。今では虫は主に昆虫を指す言葉になってしまいましたが、昔は寄生虫などもひっくるめて虫だったのです。
面白ことに、漢字の魑魅魍魎は鬼と言う偏が使用されていますが、これが虫偏になった漢字も存在し螭鬽蛧蜽と言います。読み方もちみもうりょうです。この漢字は正確には長い年月生きた虫が鬼に変わった場合に使用されると思われます。
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