戦闘機特集の第三回目は第二次世界大戦中に作られたレシプロ戦闘機についてご紹介します。
戦争は発明の母である、といわれるとおり、戦争は科学技術を著しく向上させます。第一次世界大戦から第二次世界大戦中には、無線、レーダー、毒ガス、爆弾、ロケットミサイル、原子爆弾など様々な技術が開発、実用化されました。WW2終戦間際にはジェット戦闘機も出現しており、航空機の歴史を大きく変えた時期でもあります。
戦闘機は、エンジンの馬力アップに伴い二枚の主翼からなる複葉機は姿を消し、一枚だけの単葉機が主流になりました。より最高速度と加速を上昇させるためにエンジンを二つ積んだ双発機も登場しましたが、機動力が低下するため空中戦を行う戦闘機には主に単発が用いられています。さらなる機動力獲得のため、ゼロ戦のように主翼の取り付け位置を胴体の真下に持ってくる低翼の機体が現れました。また、機関銃の攻撃に耐えるために装甲も厚くなり、重量もどんどん重くなっていきました。
今回は第二次世界大戦のレシプロ(車のエンジンと同じ原理のピストンで回転を得る方式)機のご紹介です。
戦闘機の初飛行の年、最高速度、上昇速度の表
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ヨーロッパでは様々な国で開発がなされています。最高速度は時速500kmで、終戦に近くなると時速700km以上の機体が出てきます。日本の戦闘機は、エンジンの出力が低かったため、より早い速度を得るために、徹底的な軽量化と、空気抵抗の低減がなされました。その極みがゼロ戦です。エンジンは1000馬力程度と低出力の栄を積んでいて速度が得られなかったため、徹底的な軽量化とねじに至るまで機体の凹凸をなくして空気抵抗の低減を行っています。更に低翼にすることで更なる機動性が得られ、抜群の加速度、旋回性能、2200kmという長大な航続距離が得られました。性能的には西洋諸国の戦闘機に追いつけました。
ゼロ戦は開戦当初は敵機に後ろを取られた際は、小回りの出来る旋回性能を生かして宙返りを行うことで敵を引き離し優位に戦えましたが、逆に軽量化が仇となり装甲が厚くて重いアメリカ軍機に急降下されると軽すぎてついていけずに逃げられました。最高速度もアメリカ軍機の方が速かったので、一度逃げられると追いつけません。また、アメリカ軍がゼロ戦とのドッグファイトを避け、速度を生かした一撃離脱と二機一組でゼロ戦一機を追い詰めるサッチウィーブ戦法を編み出すことで完全に立場は逆転しました。ゼロ戦パイロット達も左捻りこみなどの職人技とも言える技術を作り出し対抗しようとしましたが、アメリカ軍の堅実な作戦と熟練パイロットの喪失などで日の目を見ることはなく、これ以降大戦終了まで性能でアメリカ軍機に勝ることはありませんでした。
ゼロ戦の後継機は紫電改(しでんかい)です。ちなみにファーストガンダムに出てくるホワイトベースの乗組員、カイ・シデンは紫電改をもじって付けられています。アニメでは不甲斐なくセーラさんによくひっぱたかれていましたが、小説版では実はニュータープに覚醒した挙句、シャアの同志になってしまったというアニメと小説では全く扱いが違う人です。その紫電改はエンジンに2000馬力の誉を使用していましたが、初飛行した1944年当時にはアメリカはすでに3000馬力のエンジンを開発していました。
紫電改
出典:wikipedia
ヨーロッパでも様々な国が様々な戦闘機を開発しており、ドイツのメッサーシュミット、ハインケル、イギリスのホーカー、スーパーマリン、スウェーデンのサーブなどが戦闘機メーカーとして、ロールス・ロイツやメルセデスなどがエンジンメーカーとして有名です。ソビエトではMigとして知られている、ミコヤンとグレビッチの両設計局がMigの第一号機を完成させています。
重量(全備は全備重量。その他は空虚重量)、馬力、生産数の表
第二次世界大戦 | ||||
名称 | 分類 | 総重量 (kg) |
出力 | 生産数 (機) |
一式戦闘機 隼(はやぶさ) | 単葉、単発 | 1,975 | 1,150馬力 | 5,751 |
二式単座戦闘機 鍾馗(しょうき) | 単葉、単発 | 2,109 | 1,500馬力 | 1,225 |
二式複座戦闘機 屠龍(とりゅう) | 単葉、双発 | 4,000 | 1,080馬力 | 1,704 |
三式戦闘機 飛燕(ひえん) | 単葉、単発 | 2,380 | 1,175馬力 | 約3,000 |
四式戦闘機 疾風(はやて) | 単葉、単発 | 2,698 | 1,825馬力 | 約3,500 |
五式戦闘機 | 単葉、単発 | 2,525 | 1,500馬力 | 約400 |
零式艦上戦闘機 零戦(ぜろせん) | 単葉、単発 | 1,754 | 940馬力 | 10,430 |
二式水上戦闘機 | 単葉、単発 | 1,922 | 940馬力 | 327 |
雷電(らいでん) | 単葉、単発 | 2,539 | 1,800馬力 | 621 |
強風(きょうふう) | 単葉、単発 | 2,700 | 1,460馬力 | 97 |
紫電(しでん) | 単葉、単発 | 2,897 | 1,990馬力 | 1,007 |
紫電改(しでんかい) | 単葉、単発 | 2,657 | 1,990馬力 | 415 |
烈風(れっぷう) | 単葉、単発 | 3,267 | 2,200馬力 | 8 |
メッサーシュミット Bf110 V1 | 単葉、双発 | 5,700 | 約6,000 | |
メッサーシュミットMe210 | 単葉、双発 | (全備)9,750 | 1,350馬力 | 約350 |
メッサーシュミット Me410 | 単葉、双発 | (全備)10,650 | 1,750馬力 | 約1,200 |
フォッケウルフFw 190 ヴュルガー | 単葉、単発 | (全備)4,063 | 1,700馬力 | 約20,000 |
フォッケウルフ Ta152 | 単葉、単発 | 3,920 | 2,230馬力 | 約100 |
ハインケル He 100 | 単葉、単発 | (全備)2,500 | 1,100馬力 | 19 |
メッサーシュミットMe 209 V5 | 単葉、単発 | 3,339 | 1,900馬力 | |
フィアット G.55 チェンタウロ | 単葉、単発 | 2,630 | 1,475馬力 | 約300 |
マッキ MC.202 フォルゴーレ | 単葉、単発 | 2,491 | 1,175馬力 | 約1,500 |
マッキ MC.205 ヴェルトロ | 単葉、単発 | 2,581 | 1,475馬力 | 262 |
レッジャーネ Re.2000 ファルコ | 単葉、単発 | 2,090 | 1,000馬力 | 約170 |
レッジャーネ Re.2001 アリエテ | 単葉、単発 | 2,495 | 1,175馬力 | 約250 |
VL ミルスキ | 単葉、単発 | 2,329 | 1,065馬力 | 51 |
IAR-81 | 単葉、単発 | 2,200 | 1,000馬力 | 176 |
ロッキード P-38L ライトニング | 双胴、双発 | 5,800 | 1,600馬力 | 9,942 |
ベル P-39 エアラコブラ | 単葉、単発 | 2,420 | 1,200馬力 | 9,584 |
カーチス P-40 ウォーホーク | 単葉、単発 | 2,810 | 1,200馬力 | 13,738 |
リパブリック P-43 ランサー | 単葉、単発 | (全備)3,850 | 1,200馬力 | |
リパブリック P-47D サンダーボルト | 単葉、単発 | 4,800 | 2,430馬力 | 15,660 |
ノースアメリカン P-51D マスタング | 単葉、単発 | 3,460 | 1,695馬力 | 16,766 |
ベル P-63 キングコブラ | 単葉、単発 | 2,892 | 1,325馬力 | 3,305 |
バルティ P-66 ヴァンガード | 単葉、単発 | 2,376 | 1,200馬力 | 146 |
リパブリック XP-72 | 単葉、単発 | 5,216 | 3,000馬力 | 2 |
ブルースター F2A バッファロー | 単葉、単発 | 2,146 | 1,200馬力 | 509 |
ヴォート F4U コルセア | 単葉、単発 | 4,074 | 2,135馬力 | 12,571 |
グラマン F4F ワイルドキャット | 単葉、単発 | (全備)3,359 | 1,200馬力 | 7,722 |
グラマン F6F ヘルキャット | 単葉、単発 | 4,190 | 2,000馬力 | 12,275 |
グラマン F7F タイガーキャット | 単葉、双発 | (全備)11,670 | 2,100馬力 | 364 |
グラマン F8F ベアキャット | 単葉、単発 | 3,210 | 2,100馬力 | 1,266 |
ウェストランド ホワールウィンド | 単葉、双発 | (全備)4,621 | 960馬力 | 112 |
ウェストランド ウェルキン | 単葉、双発 | (全備)7,875 | 1,250馬力 | 70 |
ブリストル ボーファイター | 単葉、双発 | 7,072 | 1,600馬力 | 5,928 |
ボールトンポール デファイアント | 単葉、単発 | (全備)3,900 | 1,030馬力 | 1,065 |
スーパーマリン スピットファイア | 単葉、単発 | 2,309 | 1,470馬力 | 約23,000 |
ホーカー ハリケーン | 単葉、単発 | 2,560 | 1,280馬力 | 14,000 |
ホーカー タイフーン | 単葉、単発 | (全備)5,030 | 2,180馬力 | 3,330 |
ホーカー テンペスト | 単葉、単発 | (全備)5,120 | 2,420馬力 | 1,702 |
スーパーマリン シーファイア | 単葉、単発 | 2,309 | 1,470馬力 | 約23,000 |
ブラックバーン ファイアブランド | 単葉、単発 | 5,150 | 2,500馬力 | 220 |
フェアリー フルマー | 単葉、単発 | 3,955 | 1,260馬力 | 606 |
フェアリー ファイアフライ | 単葉、単発 | 4,254 | 1,730馬力 | 1,702 |
MiG-1 ミーグ・アヂーン | 単葉、単発 | 2,410 | 1,350馬力 | 約100 |
MiG-3 ミーグ・トリー | 単葉、単発 | 2,699 | 1,350馬力 | 約3,000 |
Yak-1 ヤーク・アヂーン | 単葉、単発 | 2,445 | 1,050馬力 | |
Yak-9 ヤーグ・ヂェーヴャチ | 単葉、単発 | 2,350 | 1,110馬力 | |
ラボーチキン・ゴルブノフ・グドコフ LaGG-3 | 単葉、単発 | 2,620 | 1,240馬力 | 6,258 |
ラボーチキン La-5 | 単葉、単発 | 2,605 | 1,700馬力 | 9,920 |
ラボーチキン La-7 ラー・スィェーミ | 単葉、単発 | 2,605 | 1,850馬力 | 5,753 |
デヴォアティーヌD.520 | 単葉、単発 | (全備)2,780 | 910馬力 | 437 |
IK-3 | 単葉、単発 | 2,400 | 920馬力 | 13 |
CAC CA-12 ブーメラン | 単葉、単発 | (全備)3,492 | 1,200馬力 | 約250 |
サーブ 21 | 双胴・推進式 | 3,250 | 1,475馬力 | 約300 |
FFVS J22 | 単葉、単発 | 2,020 | 1,065馬力 |
この時代になると、軒並み重量は2トン、馬力も1000馬力を超えています。生産台数が1万機を超えている機体はさすがに名機ぞろいです。日本ではゼロ戦、ドイツはメッサーシュミットBf109(Bf109はシリーズ全体で3万機以上生産されており、初期の機体は第二次世界大戦前に開発されています。)、アメリカは最高のレシプロ機の誉れ高いマスタングや太平洋を飛び回ったヘルキャット、イギリスではドイツによる本土攻撃、バトルオブブリテンで活躍したスピットファイヤ等どれも有名な機体です。
双発の戦闘機で有名な機体はアメリカ陸軍の双発双胴のP-38 ライトニングで、開戦当初は日本軍兵士達からペロハチと呼ばれており、落としやすい機体だと言われていましたが、実態は最高速度でゼロ戦をはるかに上回っており、一撃離脱戦法で多くの日本軍機を撃墜しています。グラマン F7F タイガーキャットは双発でありながら艦上戦闘機として採用された異例の機体です。
ノースアメリカン P-51 マスタング
出典:wikipedia
グラマン F6F ヘルキャット
出典:wikipedia
スーパーマリン スピットファイア
出典:wikipedia
ロッキード P-38 ライトニング
出典:wikipedia
グラマン F7F タイガーキャット
出典:wikipedia
この時代は人類史上最も悲惨な時代であったでしょう。しかし、最初に書いたように戦争は発明の母であることを文字通り体現している時代で、メカ好きにはたまらない時代でもあります。また、戦略においても空からの攻撃と、飛行機を運ぶ空母の重要性による日本の大鑑巨砲主義から空母への方向転換等様々な転機がありました。この時代は戦闘機を初めその発展が多くの人を惹きつけてやみません。
下のグラフはこれまで作られた戦闘機の最大速度を初飛行した年でプロットしてみました。レシプロ機自体は時速950kmあたりが限界で、第一次大戦から第二次大戦にかけて最大速度は950km/hに向かって緩やかに増加し、770km/h付近でジェット機に切り替わりました。ジェット機が出来て、ある程度技術が向上し安定して飛行できる機体ができた1950年以降に最大速度は急激に上昇しています。最大速度競争です。1970年付近になると、速度は2,500km/h位で頭打ちになり、速度以外の運動性や電子機器などの性能向上に注力されました。最高速度に関しては、速度が速すぎると空気との摩擦や抵抗で機体が持たないので、近年でもマッハ2(成層圏付近を飛行した場合で2,160km/hくらい。地上付近だと2,450km/hくらいの速度。)程度の機体が多いです。マッハ3以上で飛行すると隕石の落下と同じ空気の断熱圧縮で飛行機の外壁が高温となり主として用いられているアルミ合金だと、融点が低いので溶けてしまう危険があります。
下は各戦闘機の上昇速度のグラフです。第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて上昇速度の向上はほとんどみられません。レシプロ機での上昇は非常に難しいのがわかります。1950年以降は爆発的に向上しています。プロペラで進むのと、燃焼ガスを噴出して進むというエンジンの推進構造の差が顕著に見られます。1970年以降は上昇速度は緩やかに向上していますが、一方で最高速度は向上していません。その分、加速の向上や翼の形状をクリップトデルタ翼等のデルタ翼にして運動性能を向上させています。
零戦の航続距離は3000kmです。
あと、イタリアの最強レシプロ戦闘機であるG.56は?どこにあります?