望天吼(ぼうてんこう) 犼 (こう hou3 ホウ)
今回は観音菩薩が乗るとも言われている犼についてのお話です。
犼は中国の神話に出てくる神獣です。別名、望天吼(ぼうてんこう)や朝天吼(ちょうてんこう)、蹬龍(とうりゅう?)などとも呼ばれています。もともとは神獣、凶獣あるいは瑞獣とされていましたが、明清代になると突如として怪物として出現するようになりました。
- 伝説中の犼
犼は古い書物に記載が見られる、犬に似た人を食べる北方の野獣です。天安門城楼の前の華表上で南を向いて座っている二対の石の犼が有名ですが、この犼は”望帝帰”と呼ばれています。この犼達は、皇帝が外巡を専門に視ており、皇帝が久しく帰らなければ彼らは素早く皇帝を呼び戻して、政治問題を片付けます。天安門の後ろの二対の犼は逆に北に向かって座っており、”望帝出”と呼ばれています。こちらの犼達は、皇帝の宮殿内の行動を見ており、宮殿内深くで政を行っていなければ、直ちに皇帝を宮殿から出し、各地の視察へと向かわせます。
犼に関しては面白いことに両極端ともいえる二つの説があります。すなわち、一つ目は犼が神獣であるということ、もう一つがなんと中国の有名な妖怪であるキョンシーの頂点に立っているということです。
一説によると犼は龍王の息子であり、監視の習慣があったといいます。華表柱の上にある蹬龍と天咆哮は天意を伝え民情を汲み皇帝を監督します。
《集韵》には、”犼は獣名で犬に似て人を食べる。”とあります。また、”東海には犼という名の獣がおり、ウサギに似ており両耳は長く尖っていて一尺あまりの長さである。獅はこれを恐れ、犼の尿が体にかかるとその部分は腐ってしまった。”ともあります。《偃曝談餘》には、”体は小さいけれど、龍に向かっていくことができ、勝った後は食べてしまった。”とあります。
清の東軒主人の《述異記》には、”東海に犼という名の獣がいた。よく龍の脳を食べ、空に漂い獲物には異常なほど獰猛であった。いつも龍と戦っていた。口から数丈もの火を吐き、龍はいつも勝てなかった。康熙二十五年夏の間、平陽県に犼がおり、海中から龍を追い空中へ至る。人々は三蛟二龍と一犼が三日夜戦っているのを見た。一龍二蛟を殺し、犼もまた死に、山谷へ落ちて行った。その中の一物は長さ十二丈で馬に似た体で鱗と鬣があった。死後には鱗鬣の中から焔のような一丈余りの火と光が起こり、犼を覆った。”とあります。
中国では龍の種類は一種類ではなく、実は何種類もいます。角の有無や本数、翼の有無でそれぞれ名称が異なります。蛟は龍の一種で角が一本のみの龍を蛟龍と呼びます。文献によっては角のない龍を蛟と呼んでいるものもあります。
蛟龍に関しては以下をご覧ください!
- 犼の外見
望天吼の容貌には以下のように十種の動物の特徴が取り入れられています。
1、鹿のような角 2、ラクダのような頭部 3、猫のような耳 4、蝦のような眼 5、ロバのような口 6、獅のような髪 7、蛇のような首 8、蜃(伝説中の生き物で蜃気楼を作り出すと言われている。)のような腹 9、鯉のような鱗 10、鷹のような前爪と虎のような後爪
- 魃説について
この項では犼とキョンシーとの関連について述べます。
いきなりキョンシーと言われても何のことかわからなないかもしれませんが、キョンシーは中国で最も有名な妖怪で、その形成には様々な説があります。赶屍術(かんしじゅつ)と言って茅山系道教の道士の術により作り出します。埋葬の仕方が悪いとキョンシーになるとも言われています。この場合は、三魂七魄の内、魄だけが体に残りキョンシーとなってしまいます。
また、埋葬された死者が旱魃(かんばつ)という妖怪に変わり、これがキョンシーであるという説もあります。旱魃は干ばつを引き起こすと考えられているので、日照りが続いたら埋葬者が旱魃になったためだということで墓を掘り起こし死体を確認するという風習が中国各地で実際にありました。
《閲微草堂筆記》には犼が死んだ後にキョンシーになってしまったという記述があります。また、袁枚の《続子不語》には、”常州蒋明府言が言うには、仏の乗る獅、象、は知っているが、同様に仏の乗る犼は知らない。犼はキョンシーが変化してなったからだ。”とあります。
キョンシーに関しては以下をご覧ください!
明清代以降には魃はキョンシーが変わることのできる最上位の存在と成し、魃とキョンシーは同類とみなされる場合がありました。魃は強大な力を持つ妖怪です。
金毛犼はキョンシーの中で唯一金毛を修めるに至り、犼の最上位です。キョンシーは死後体が腐らずに、血肉は縮み骨の中に至り、筋ができ始めます。筋の上には白毛があり、500年後には白毛は黒に変わり、さらに500年後には黒色は黄色(紅色の説もあり)に変わります。さらに500年後に金毛に変わります。
1000年経ち空に天雷があると金毛のキョンシーを除いた全てのキョンシーは灰になり粉々になって煙と共に消滅してしまいます。すなわちこれが金毛犼です。金毛犼は全身金毛ですが、首のところにわずかに白い毛があり、この部分が罩門や練門と言い、鍛えきれない弱点となります。一説によると罩門は尻尾の付け根とも言われており、これは唐代の薛仁貴が仙人の指示した部分を射て一体射殺しています。すなわち、この部分が罩門であると考えられます。
出典:baidu
犼は望天吼という名の方がなじみがあるかもしれません。もともと神獣でしたが、時代と共に凶暴さを増していき、龍を捕食するという恐ろしい猛獣となってしまいます。
また、キョンシーが変化したものという説もあります。額にお札を貼られてピョンピョン飛び跳ねているキョンシーからはイメージできませんね(;´∀`)
その他にも皇帝の政治を監視する役目も背負っており、様々な特徴を持った神獣と言えます。
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