ネアンデルタール人はこれまで前回の氷河期の間、凍りついたヨーロッパをふらふらと歩いていたと考えられていましたが、実際はユーラシア大陸の東部にまで進出しており日本人の祖先でもある近代人類の近くで生活していたことが分かりました。新しい2つの研究から、すでに絶滅したネアンデルタール人が東アジアの近代人類と異種交配を行っていた可能性があることを示唆されており、異種交配はヨーロッパ人よりもかなりの高頻度で行われており、これは東アジアの人々のDNAの中に占めるネアンデルタール人のDNAの割合が、ヨーロッパ人よりも15%から30%ほど多かったことにより裏付けられました。
科学者たちは、ヨーロッパ人のケースと比較して近代の東アジア人とネアンデルタール人の交配は2つの異なるケースがあるといいます。このことは、これまで考えられていたよりもネアンデルタール人がはるかに東方にまで広がっていたことを示唆しています。
Vernot氏は”これらDNAの分析を困難にしていることに、歴史を通して絶えず人類は移動してきたことにあります。このことが、人類とネアンデルタール人達のかかわり合いを正確に説明することが困難になっています。例えば、アフリカを出たばかりでユーラシア大陸に広がる前の人類が中東でネアンデルタール人と異種交配を行っていた、という推測も可能なのです。
論文によると、全てのノンアフリカンがネアンデルタール人と異種交配を行い、その後に各グループに分かれてそれぞれヨーロッパ人とアジア人に分かれた、というモデルもあります。分かれてすぐに、東アジアに分かれて進んだ先祖は、ネアンデルタール人と出会い、ヨーロッパ人よりも少しだけ多く異種交配がなされた、ということもできます。大事なことは、我々は歴史残っている期間、ネアンデルタール人と接したことはなということです。
研究を行っていると、何度も出会った気になってしまいますが。しかし、より多くの個体を観察することで、我々の祖先がどこでいつ頃ネアンデルタール人達と交わっていたのかをより正確に知ることができます。”と語ります。
しかし、UCLAのKirk Lohmueller博士達のグループによるもう一つの研究では 、似たような手法でシミュレーションを行ったところ、アジアではネアンデルタール人と複数回の異種間交配が行われていた可能性があるという結果でした。Lohmueller博士は、”今回の結果から過去の正確な出来事を導き出すのは非常に困難ですが、考えられる可能性として、アジア人は中東を出て以降にネアンデルタール人との異種交配があったが、ヨーロッパ人にはなかった、ということです。”
“この異種間交配は、ネアンデルタール人とアジア人が直接行っており、その時の状況は様々だったことでしょう。”と、語ります。
オックスフォードブルックス大学の人類学者であるSimon博士は、今回の発見により、これまで我々が思っていたネアンデルタール人像が大きく変わることでしょう、と説明しました。
“最近の研究を見ていると、アフリカを出て以来、他の類人猿を打ち負かして生息域を広げていったという人類の一人勝ちのイメージはもう持てないですね。むしろ、我々の直接の祖先の遺伝子の多様性は、様々な地域で様々な類人猿達と異種交配がなされた結果なのでしょう。”と博士は締めくくりました。
ロンドンの国立歴史博物館の世界的な人類学者であるChris Stringer教授は、”我々のネアンデルタール人像は、ヨーロッパ的な認識でしたが、それは間違いなのでしょう。ネアンデルタール人がヨーロッパ人であるような認識はただ単に、ネアンデルタール人の有名な遺跡がヨーロッパにあるということからきています。しかし、1930年代以降、ネアンデルタール人の遺跡はアジア地域でも見つかっているのです。そして、イスラエルやシリア、イラクやウズベキスタンといった国々同様にアジア地域の彼らの化石を我々は持っているのです。”
“シベリアではより断片的な遺跡が研究されていますし、アルタイのデニソワ洞窟では今までで最高の状態のネアンデルタール人の遺伝子が発見されています。ネアンデルタール人はジブラルタルのように長いこととどまっていた例もありますが、より東方ではネアンデルタール人がいつ頃いなくなったのかという情報は乏しいのです。ですので、ネアンデルタール人と現生人類がアジアで異種交配していたという推測は成り立ちますが、アジア地域、とりわけ南アジアのネアンデルタール人のDNA情報が少ないので推測の域をでません。”と説明してくれました。
出典:dailymail