女丑:巨大蟹をペットに従え十個の太陽に焼き殺された神

女丑(じょちゅう nv3chou3 ニューチョウ)

女丑は中国伝説中の神です。山海経に記載が見られており、山海経・大荒東経には”海内に二柱の神人がおり、そのうちの一柱を女丑と言った。女丑は一匹の大きな螃蟹(かに)を付き従えていた。”と書かれています。

大荒東経に関しては以下をご覧ください!

山海経を読もう!No,14 大荒経大荒東経編

しかし、この女丑は海外西経では太陽に焼き殺されてしまったと言う記述があります。その内容は、”女丑の屍体があり、彼女は生前に十個の太陽の熱気で焼け死んだ。彼女は丈夫国の北面に横たわっている。死ぬとき、右手でその顔を遮っていた。十個の太陽は天上高くあり、女丑の屍体は山頂に横たわっていた。”です。




山海経を読もう!No,7 海外経海外西経編

十個の太陽は中国神話中では重要な意味を持っています。この太陽の正体は実は三本足の鳥なのですが、この十個の太陽を生んだのが帝俊とその妻の羲和でした。太陽たちには悪意はなかったのですがこの十個の太陽が同時に空に出現したために大地は焼け焦げて人々は飢えと渇きに苦しみました。そして様々な悪獣達が暴れ出し、時の帝であった帝堯もお手上げで天帝である帝俊に助けを求めました。その時派遣されたのが中国神話中の大英雄后羿で、后羿は見事に九個の太陽を射落として大地を灼熱の地獄から救いました。この時羿が矢を射て太陽にあたり、空から落っこちてきたのは太陽ではなく何と巨大な三本足の鳥だったと言います。

羲和に関しては以下をご覧ください!

羲和:太陽を十個生み大地に大干ばつをもたらした帝俊の妻

帝俊に関しては以下をご覧ください!

帝俊:天帝でもともとは夔と言う神様な上、太陽と月の父親でもあった帝

帝堯に関しては以下をご覧ください!

帝堯:お酒や囲碁を発明したという聖人で五帝の一

三足鳥に関しては以下をご覧ください!

三足鳥:太陽の中に住んで大空を自由に飛び回った神鳥

また、大荒西経にも女丑の記載があり、”大荒の中に龍山があり、太陽と月とが沈む場所であった。三つの池が集まってできた大池があり、三淖と言い、昆吾族人が食料を得る場所であった。青色の衣服を着た人がおり、ミカンでその顔を遮っており、名を女丑屍と言った。”とあります。山海経に出てくる神様の名前には屍がつく場合があるので女丑屍は女丑と同一神だと思われます。

ミカンで顔を遮っているというまるで絵がありその絵に描かれた内容を説明しているようですが、実際に山海経には文章と共に絵があったとされています。しかし顔を覆うほどのミカンとはどれだけ大きいミカンなのでしょうか。

山海経を読もう!No,16 大荒経大荒西経編

  • 袁珂の解釈

中国の有名な神話研究者に袁珂がいます。袁珂は山海経注の女丑は古代の女巫であり、この女巫は高い神通力を持っておりいつも独角龍魚に乗り九州(中原)の原野を巡っていたと解釈しています。龍魚は鼈魚とも言い娃娃魚よりもさらに大きい魚でした。この他に大蟹を一匹持っており、この大蟹は北海で成長し背中は千里ほどの広さがあったと言います。大蟹は女丑の命令に従っていました。

そして、十個の太陽が出るという異常事態によって女丑の運命は変わってしまいました。それは海外西経に見られるように女丑は十個の太陽によって焼き殺されてしまったのです。

これは古代の重要な信仰との関連が考えられますが、それは旱魃です。旱魃はもともと美しい女神でしたが後世には次第に干ばつを起こす妖怪として描かれるようになり、最終的には人間が死後に旱魃と言う恐ろしい妖怪に変わるために干ばつが起こるのだ、と言う解釈になりました。




旱魃に関しては以下をご覧ください!

旱魃:美しい女性から恐ろしいキョンシーにまで変わってしまった悲劇の天女

中国の農村部では1960年代ごろまで焚焼屍骨と言って、干ばつが発生すると最近死んだ遺体が旱魃に変わったためだとして墓を掘り起こして遺体を焼いてしまいました。この風習は何と中国で有名な妖怪のキョンシーと結びつき、旱魃に変わった遺体をキョンシーとされました。このため、キョンシーの祖は旱魃であると言う考えもあります。

女丑が焼き殺されたと言う記述はこの旱魃を連想させ、昔の人たちが旱魃を除こうとして焼いたことを示しているのではないかと袁珂は指摘しています。

出典:baidu

キョンシーの話が出てきましたが、キョンシーは中国の伝統的な妖怪です。キョンシーは旱魃に変わってしまった遺体の事を指す場合もあるため、旱魃がキョンシーの始祖ではないかと言われています。キョンシーを作る際、というかできる際(良い子のみんなは真似をしてはいけません。)は、人間に備わっているとされている三魂七魄の内の魄だけを遺体に残してあげます。人の死後には魂は天に帰り魄は地に帰りますが、魄が体内に残ると陰の存在である化け物のキョンシーとなると言われています。

キョンシーに関しては以下をご覧ください!

キョンシーを徹底解説!中国のキョンシー実在調査のまとめ

その他の説では戦乱の世に湖南省付近の山岳地帯に住んでいる苗族に由来していると言います。苗族は山岳地に住む民族で古くは蚩尤(しゆう)の時代からの因縁で中央政権に対してよく反乱を起こしていました。鳳凰城などが有名で今でも残っています。

苗族に関しては以下をご覧ください!

蝴蝶媽媽と妹榜妹留:神秘的な民族、苗族のご先祖様のお話

蚩尤に関しては以下をご覧ください!

蚩尤:中国神話中で最も恐れられた荒れ狂う不死身の戦神

鳳凰城に関しては以下をご覧ください!

中国湘西鳳凰城のライトアップが始まり、その美しさに誰もが息をのむ 中国 湖南省

戦乱は戦死者を生みますが、その戦死者を運ぶ際に山道を通らなければならないため非常に困難な仕事でした。そこで道教の道士たちが秘術を編み出し死者自身を動かしたのです。その術は具体的にどういうものかわかりませんが、こちらも魄を体内に残すと言うやり方だと考えられます。このキョンシーは映画などのイメージに近く、額にお札を貼って道長の鈴の音に従ってぴょんぴょん飛び跳ねます。

苗族は美人が多い民族としても有名であり、さらに蠱毒を行う民族としても有名です。また、蠱毒は女性が代々行っており、蠱は代々女性の子孫へと受け継がれていったとされます。苗族は神秘的と言うか見方によれば非常に不気味な存在に見えました。そのため迫害を受けたなどの歴史もあり、独特の文化を築いています。因みに山岳地方ですので料理には塩はあまり使っておらず、酢と唐辛子で塩味を補ってることが特徴です。また、山岳地帯なので棚田を作っており、その膨大な数の棚田は壮観で観光名所ともなっています。

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蠱毒(こどく)で本当に人を呪えるのか?そもそも中国の蠱毒とは?

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